日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『冬のリヴィエラ』 森進一 ~ さわやかな森進一はお好きですか?

演歌とは何か、という問いの解のひとつに、

「演歌歌手が歌っているうた」という、

文字通り本末転倒しているくせに言い得て妙、な答えがある。

 

演歌というのは非常に厄介な分類で、

メロディーやリズムといった、音楽上の特徴から、

ジャンルを分けることが困難なのだ。

コブシを効かせている、とか、

感情を歌い上げる、とか、

そういう印象面での分類であると認識している。

 

そういった意味でも、「演歌歌手が歌ううた」という分類法が、

演歌にとって一番適切なジャンル定義となるのだろう。

 

 

しかし待て。

この『冬のリヴィエラ』はどうだろう。

 

冬のリヴィエラ[森進一][EP盤]
シングルジャケット/amazonより
冬のリヴィエラ

冬のリヴィエラ

  • 森 進一
  • J-Pop
  • ¥250
 
  • 作詞 松本隆、作曲 大瀧詠一、編曲 前田憲男
  • 1982年(昭和57年)11月21日、ビクター音産より発売
  • オリコン最高位10位(年間41位/1983年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:冬のリヴィエラ 森進一 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:冬のリヴィエラ - Wikipedia
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    ポップス畑の松本隆大瀧詠一の作であることと、

    なにより、

    なんだ、実はふつうに歌えるんじゃないか!

    と驚かずにいられない森進一のさわやかな歌唱が、

    演歌という分類から一線を画している*1

     

     

    大瀧お得意の、ウォール・オブ・サウンド*2

    泣きのブルースを得意とする森進一にぶつけたところ、

    なんと森進一が大変身。

    ここまで爽やかなポップスに昇華するとは

    だれも想像していなかっただろう。

     

    歌いだしの「♪ぁあ゛いつに、 よ゛ろしく、、、」

    あたりまでは従来の森進一を少し引きずっているが、

    そこからは極上のポップスを聴かせてくれたのだった。

     

     

     

    ぜひ、コロッケのモノマネの森進一の顔を

    脳裏から消し去って、

    純粋に『冬のリヴィエラ』を聴いてみよう。

     

    ものすごくいい曲じゃないか。

    森進一でなければ抱きしめてあげたい。(失礼な*3

     

     

    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    この曲、決して変拍子ではないのだが、

    意外と変な構成で、通常

    イチ234、ニィ234、サン234、シィ234、

    と4小節ごとに区切ってひとかたまりにするのが自然なところを、

    あちこちでそれを崩していて、

    サビの前で、ゴォ234と、ひと小節多く現れたり、

    2番の前奏がニィ234止まりだったりと、少々変則気味だ。

     

    この辺判ってて演奏しないと、ドラムのフィルイン*4の場所なんかが

    混乱してつっかえてしまうので、

    みんな、冬のリヴィエラでドラムをたたくときは注意しよう!

    (自分も含めて99.99%の人間の役に立たない情報)

     

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    リヴィエラ

    正直言うと、植物の名前か何かだと思っていた。

    イタリア語で海岸を意味するものらしい。

    また、「リビエラ地方」というとイタリア北西の海岸沿いを指すようだ。

    歌詞中に「シュロの木」(ヤシの木などの総称)が登場するので、

    ヤシの生える地中海のお洒落なビーチを想像するのが良いと思う。

    気が向いたら「リビエラ サンレモ」などで画像検索してみよう。

     

    おそらく日本の冬の海と違い、明るい景色なのだと思う。

    しかし冬なので当然、波打ち際には人の気配はない。

    カラッと明るく、ひと気のない、

    白い空虚な空間のイメージか。

     

      

     アメリカの貨物船が 桟橋で待ってる」

    これは2通りの解釈が可能。

    ひとつは、主人公は臨時雇いの水夫、要するにフリーの船乗りで、次に乗り込むことになった船が港で待っている、という解釈。主人公は「ホテル」住まいで、定住者ではない点からこれがうかがえる。

    もう一つは純粋に、桟橋に停泊している船が遠くに見える、という解釈。甲板にアメリカの国旗が見えたのだろうか。舞台がリビエラ地方であるならば、外国の貨物船が停泊できるような国際港といえば、ジェノバか、ラスペツィアだろう。

     

     

     「男ってやつは港を出ていく船のようだね」

    これも何通りかの解釈が可能。

    ひとつは、「アメリカの貨物船」を遠くに見て、男というやつは、船のようにいつかは出航していくものだ、と別れの必然性を船にたとえている。(身勝手だね)

    もう一つは、「悲しければ悲しいほど 黙り込む」、静かに去りゆく男を、飛行機などと違い、音も静かに出港していく船に見立てている。

     

     

     「革のコートのボタン一つ 取れかけてサマにならない」

    仕事着だろうか。女性と過ごした日々には着ることのなかった革のコート。昔に戻って久しぶりに着てみると知らない間に壊れていた、ということだろう。

    取れかかったボタンを見て、直してもらってから別れればよかった。あぁ人生ってやつは思い通りにならないものさ、と言っているわけではないと思う。そうであればかなりサイテーだ。

     

     

     

    現在入手可能な収録CD 10曲目/視聴可能
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    ▼ 森進一
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    ※該当曲を聴ける保証はありません。

     

     

    脚注

    *1:そもそも、森進一は演歌歌手ではなくブルース歌手ではないかという問題もある。しかしここでいう「ブルース」も黒人音楽がルーツであるbluesと違い、音楽性の分類ではなく暗い内容の歌の総称だったりするのでややこしい

    *2:同じ音を何重にも重ね撮りすることで、きらびやかで、エコーがかかったような印象の音を作り出す技法。同じ楽器を同じ旋律のみならず、オクターブ違いでも重ね撮りする。輪郭がはっきりしないが重厚、という表現の難しいサウンドを生み出す。

    *3:一応フォローを入れると、個人的に森進一は結構好きで、ベストアルバムを買ったことのある数少ない歌手のひとり。というか、日本人の歌手のベストアルバムをで新品で買ったのはこの人のものだけ。『新宿・みなと町』(1979年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード)とかホントたまらん。

    *4:おかず、ともいわれる。曲調の変わり目の直前にいれる、ドラムによるイントロのようなもの