日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『少年時代』 井上陽水 ~ 憧れを覚えていますか。いいえ忘れたことにしました。

和製ボブ・ディラン、といえば吉田拓郎のことだが、

いやいや和製ディランであれば、むしろ

井上陽水のことだろう、と常々思っている。

 

どうやら自分の持つボブ・ディランのイメージと

世間の持つボブ・ディランのイメージに隔たりがあるらしい。

 

自分のイメージするディランといえば

偉大なる詩人先生、であり、

あの崩した歌い方はその次の特徴であるからだ。

 

 

少年時代
シングルジャケット/amazonより
少年時代

少年時代

 
  • 作詞 井上陽水、作曲 井上陽水平井夏美、編曲 星勝
  • 1990年(平成2年)9月21日、フォーライフレコードより発売
  • オリコン最高位4位(年間25位/1991年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:少年時代 井上陽水 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:少年時代 (井上陽水の曲) - Wikipedia
  •  

     

    さてディランのことはさておき、井上陽水

     

    この日本の偉大なる詩人先生の書く詞には

    メッセージ性があったりなかったり、

    それどころか意味さえもなかったり、と

    天然っぽいけど、実は計算しているのかも。

    そんな言葉を操る魔術師だ。

     

    「♪都会では自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた

       … けれども問題は今日の雨 傘がない」

                『傘がない』(1972年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード

    「♪窓の外にはリンゴ売り 声を嗄らしてリンゴ売り

       … きっと誰かがふざけて リンゴ売りのフリをしているだけなんだろう」

                『氷の世界』(1973年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード

    「♪ホテルはリバーサイド 川沿いリバーサイド

       … 食事もリバーサイド Wowowoリバーサイド」

                『リバーサイドホテル』(1988年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード

    「♪白のパンダをどれでも全部並べて ピュアなハートが夜空で

       … はじけ飛びそうに 輝いている 火花のように」

                『アジアの純真』(パフィー/1996年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード

     

    うーーん。なんだこれは。意味深なのか?

     

     

    そんな中においては、この『少年時代』は真っ当な部類に入る。

    元々は藤子不二雄Aに依頼され、渡された歌詞に曲をつけるところが

    スタート地点だったためと思われる。

    もっとも、藤子の歌詞は原形をとどめないほど改変され、

    タイトルしか残らなかったようだ。*1

     

    そういえばタイトルは歌詞中にその一文字も登場しない。

     

     

    「♪夏が過ぎ 風あざみ 誰の憧れに彷徨う」

     

    そんな一見真っ当っぽい中でも、陽水らしさが垣間見える。

    「風あざみ」「宵かがり」「夢花火」などは

    それっぽいものの意味がほとんどない。

     

    共通点は

    a za mi、ka ga ri、ha na bi

    と、ア・ア・イの母音で形成された語であることだ。

    音の響きだけから選んでいるとしか思えない。

     

    だからここは、

    畳でもいいし、サラミでもいいし、肌着でもいい。

     

    中身、鼻血、ハサミ、辛子、仲居、サライ、破壊、朝日、でもいい。

    おおいくらでも出てくるな。

    飾り、浅葱、タタキ、周り、花見、ささみ、タダ見、

    若い、赤い、辛い、粗い、高い、ヤバい、パない、

    馬刺し、タライ、赤字、ガタイ、だまし、他界、マタギ

    マサイ、ハワイ、高木(誰?)、正輝(神田?)、奈良井(中山道?)、、、

    ひつこいのでやめる。

     

    そんな中から、言葉の持つイメージが良いものを選りすぐったのだろう。

    だから、浅葱や飾りあたりでも何ら問題なかったと思う。

     

    けど偉大な詩人先生は、風には「薊」、宵には「篝」、夢には「花火」を選んだ。

    風になびくアザミの花、

    夕闇を照らすかがり火、

    夢を彩る花火、のイメージだろうか。

    おっと末尾が、花、火、花火、となった。こりゃ偶然だよな。たぶん。

     

     

    一か所だけ、同じフレーズの場所に

    「残された(sa re ta)」という言葉が使われている。

     

    つまりはこだわった結果ではなく

    たまたまインスピレーションからそうなっただけ、

    なのだろう。やっぱ天然なんだろうか。

     

     

    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    この曲、歌い方が難しい。

    あの、ぬたっとした*2歌い方をしないと、

    この歌自体が全然成立しないのだ。

     

    いきおい、モノマネのようにならざるを得ない。

    さもなくば、音符通りに平坦に歌って

    つまらない曲と化すだけだ。

     

    つまりは陽水は、

    偉大な詩人先生であると同時に、

    偉大なるボーカリストでもあるわけだ。

     

    カバーアルバム*3

    ヒットアルバムたりうるものに変えた

    先駆者であることも、妙に納得してしまう。

     

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    全文日本語訳行ってみよう。

    今回はいつも以上に勝手な解釈になっているので注意。

     

    夏が過ぎてゆく。

    風がふいている。

    アザミの花がゆれている。

     

    夢と希望が詰まった、

    これはいったい誰の記憶だろう。

     

    夏の空を見て思い出した。

    ああ、これは私の夏の記憶だ。

     

     

    ・・・夢を見ていたようだ。

    思えば、今、私は長い冬のような時代を

    過ごしているのかもしれない。

    心の内のあこがれは、奥底に固く閉じ込めてしまった。

    あのころの夢や希望は、もはや想い出の中にしかない。

     

     

    夏祭り。夕闇に焚かれた篝火。

    胸のドキドキが最高潮に達したころ、 

    夏の終わりを告げるような花火を迎える。

    そう、これは私の夏の記憶。

     

     

    ・・・目を覚ましてみれば、

    あの夢みていた時代は遠い昔。

    暗闇が影を伸ばして

    夢は星屑の彼方に消えてしまった。

    あのころの夢の景色は、想い出の中にしかない。

     

    夏が過ぎてゆく。

    風がふいている。

    アザミの花がゆれている。

     

    夢と希望が詰まった、

    これはいったい誰の記憶だろう。

     

    夏の終わりを告げる花火を迎える。

    そう、これは私の夏の記憶。

     

     

     

    amazonで現在入手可能な収録CD 6曲目/視聴可能

    ハンサムボーイ

    ハンサムボーイ

     

    脚注

    *1:その辺りはいくつかの藤子の著作に詳しいのでここでは省く。

    *2:どういう表現だ

    *3:ヒトの曲を歌ったものを集めたCD。下手すると人のカラオケに付き合っているような状況になる