日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『東京ラプソディ』 藤山一郎 ~ 華やかさの裏に忍び寄る影

そもそもラプソディとは何ぞや、

という疑問が先に立つ。

 

ラプソディといえば、この1936年の『東京ラプソディ』をはじめ、

ボヘミアン・ラプソディ』(クィーン/1975年/ by

『新しいラプソディ』(井上陽水/1986年/ by

ラプソディ・イン・ブルー』(DA PUMP/1998年/ by*1

など、古今東西に冠する曲は数あまたあれど、

その意味するところはあいまいではなんだかよく判らない。

なんとなく、ちょっぴり哀愁漂う雰囲気の言葉である。

 


SPレーベル/ネットでのひろいもの←いけません
東京ラプソディ

東京ラプソディ

これはやけにテンポが早いSPレコードバージョン
  • 作詞 門田ゆたか、作曲 古賀政男、編曲 高橋孝太郎
  • 1936年(昭和11年)6月、テイチクより発売
  • 歌詞はうたまっぷへ:東京ラプソディー 藤山一郎 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:東京ラプソディ - Wikipedia
  •  

    こういうときは、まずは手元の広辞苑*2を繰ってみよう。

     

    ラプソディー【rhapsody】狂詩曲。狂想曲。

     

    ラブ・ストーリー」と「ラブ・ソング」の項に

    挟まれているのがなんだかお茶目。

    狂っている曲らしいがなんだかよく判らないので、

    キーワードをたどってみよう。

     

    きょうし・きょく キャウ…【狂詩曲】器楽曲の一形式。きわめて自由な形式を持ち、楽想の自由な展開を表現するもの。ラプソディー。

     

    ぴんと来ないままにラプソディーに戻ってしまったので、

    もう一つのキーワードをたどってみる。

     

    きょうそう・きょく キャウサウ…【狂想曲】⇒カプリッチオ

     

    昔懐かしゲームブック*3みたいになってきた。

     

    カプリッチオ【capriccio イタリア】一定の形式なく気分の変換を主としたリズムの曲。狂想曲。幻想曲。

     

    タライ回しにあっている気分。

    リアル辞書を引くのって楽しいなぁ。

     

    げんそう・きょく【幻想曲】(fantasia イタリア)楽想の自由な展開によって作曲した形式不定のロマン的楽曲。また、歌劇からとった抜粋曲。ファンタジー。

     

    なぜかファンタジーにたどり着いてしまった。

    現代の感覚でいうと、ファンタジーはロマンとメルヘンの集合体なので、

    場違いなところに来てしまった感覚だ。

     

    総合すると、ラプソディとは、自由奔放な作曲の形式らしいが、

    ボヘミアン・ラプソディ』は別として、それ以外のラプソディは

    本来の意味からすると、どうもピントがずれている気がする。

     

     

    それとも、ラプソディなのは楽曲の方ではなく、

    歌われている内容・歌詞が、狂想や幻想、なのだろうか。

     

    「♪楽し都 恋の都 夢のパラダイスよ 花の東京」

    と歌われているように、

    パラダイスである東京は、夢でしかない、絵空事なのか。

     

    「♪うつつに夢見る君よ 神田は想い出の街」

    現実として見えているつもりの風景は、

    実は嘘っぱちで、想い出の中にのみ残るというのか。

     

    「♪今もこの胸に この胸に ニコライの鐘も鳴る」

    今もお茶の水にあるニコライ堂は、1923年、関東大震災により被災。

    その後1929年までに再興していたはずだが、

    鐘の音は想い出の中にしかないとうたわれている。何故か。

     

     

     

    ヒントを求めて当時の世相を見てみよう。

    1936年(昭和11年)といえば、二・二六事件のあった年。

    軍部が台頭し、この曲のリリースは戒厳令の真っ最中の6月。

    8月にはナチス・ドイツ主導によるベルリン五輪が開催され、

    翌年には日中戦争がはじまり、第2次世界大戦へと続いていく。

     

     

    ハイテンポで明るい曲調と、華やかな歌詞に隠れて

    忍び寄る暗く永い影。

     

    これが、ラプソディ、の正体なのだろうか。

    こんなに無性に明るい曲なのに。

     

      

    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    この曲に幻の5番*4があると聞いて、

    とりあえずどれどれと歌詞を眺めながら聴いたところ、

    手元の音源にでは、5番どころか3コーラスで終わっていて、4番すらない。

    というよりも3番は間奏になっていて抜けており、

    4番で終わっているというほうが正しいようだ。

     

    参考までに5番の歌詞はうたまっぷには掲載されていないので

    以下に挙げておく。

     

    「♪花咲く都に住んで 変わらぬ誓を交わす

     変わる東京の屋根の下 咲く花も赤い薔薇

     楽し都 恋の都 夢のパラダイスよ 花の東京」

     

    古い曲ほど、何回も再録されていることが多いので

    バージョン違いが多いのは致し方ないところ。

    手元の音源はどうやら藤山一郎本人によるアレンジのものらしい。

    ほかのものよりずいぶんスローテンポ。 

     

    これに聴き慣らされると、通常のものが

    いやに駆け足に聞こえてしまっていけない

     

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    「逢えば行くティールーム」

    喫茶店に対応する英語といえば、

    今では「カフェ」*5が普通だが、

    当時は「ティールーム」というのが一般的だったのだろうか。

    字面からするとティールームの方がしっくりくるのは確か。

    彼女と銀座で待ち合わせて、まず行くのは喫茶店。

    くらいの意味だろう。

     

     

    「うつつに夢見る君の 神田は想い出の街」

    「うつつ」現実のこと。

    きらびやかな銀座や新宿に遊ぶ君にとって

    神田の街はすでに想い出でしかない。

     

     

    「夜ふけにひと時寄せて なまめく新宿駅

    深夜にちょっと立ち寄った 夜の顔を見せる新宿駅

    今も昔も新宿の夜はなまめかしい。

     

     

     

     

    amazonで現在入手可能な収録CD 1曲目/試聴可能・これは藤山本人の編曲によるバージョン

     

    脚注

    *1:そもそもこれはジョージ・ガーシュイン1924年の器楽曲がタイトルの元ネタだが

    *2:昭和45年11月18日 第2版第4刷。家にある数少ない自分より年嵩のもののひとつ。古っ。

    *3:選択肢やサイコロの目によって指定された順にチャプターを読み進める書籍。現代でいうサウンドノベルに近い。

    *4:初回リリース時には没になったが、その後再録などで日の目を見たらしい

    *5:もしかしたら英語じゃない?