日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見で100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『お富さん』 春日八郎 ~ 意外や意外にヤクザな物語だよお富さん

「♪死んだハズだよ お富さん」
元ネタは歌舞伎*1らしい、と知ったのは最近のこと。

人の女に手を出したチンピラが、女ともども半殺しの目にあって、
命からがら逃げだして自分だけ生き延びたと思っていた。

しばらくのち、
当の女は誰かに囲われていて、いい暮らしをしていたことを知り、
てめえだけがいい目見やがって、と男は女をユスりにかかる。

そんな話らしい。
歌の歌詞も、よく見ると確かにそうなっている。
・・・マジ?

お富さん [EPレコード 7inch]
後年の復刻版ジャケット/amazonより
お富さん

お富さん

これはライブ音源。
  • 作詞 山崎正、作曲 渡久地政信、編曲 高田弘
  • 1954年(昭和29年)8月、キングレコードより発売
  • 歌詞はうたまっぷへ:お富さん 春日八郎 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:お富さん - Wikipedia

  • ところが、

    どういうわけか、

    そんなヤクザなドロドロした歌詞に、
    何を思ったか、こんな
    「♪パ パン が パン」ってな調子の手拍子をあしらった
    軽快な曲を乗せてしまったものだからさあ大変。

    前述のように元ネタが歌舞伎なために、小難しく難解な言葉が多く、
    意味不明な単語を聞き流して、わかる部分だけをつなげていくと
    こんな物語が出来上がってしまう

    お富サン Re:Birth(黄泉返り) が 突如出現、
    これにはお釈迦様もびっくりだ。

    過ぎた昔(死んだこと?)を、恨んだり、愚痴ったり。
    まあまあ とりあえず飲みなよ。お富サン。

    何だか話が弾んじゃって
    夜が明けたら ついてくるんだけど・・・
    どうしたものかね お富サン。

    ・・・主人公、取り憑かれたのか?


    軽快な音楽と、勘違いから生まれた「不条理さ」のギャップから
    大ヒットした『お富さん』
    今後も聴いた人たちを、次々と煙に巻いていくのだろう。



    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    リズムに乗って「♪おットミ さん~」とは歌わずに
    「♪おトォーミ さん~」、
    のように2音目を前のめりに歌っているところが非常に高ポイント。
    この効果で、単純になりがちなメロディーが転化して
    聴きごたえのある曲になっている。気づいてた?


    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    粋な黒塀 見越しの松に
    漢字で書けば解説はほとんどいらない。
    黒ベェも、お神輿も、単なる空耳だとわかる。
    しゃれた黒い塀越しに見える、松の木のそばに の意。


    玄冶店げんやだな
    地名。固有名詞なので特にこれ自体に意味を求める必要はない。ちなみに商店ではない。
    元ネタである歌舞伎では、名前をもじって「源氏店」と変えているらしいが、
    初演当時、まだ現存する地名であったための住民への配慮とのこと。
    現代になってはもはやその遠慮は不要なため、表題曲では実名に戻している。

    なお、「店」を「たな」と読むのは、今でも大店おおだななどの言葉に残っている。


    切られの与三
    主人公のあだ名。本名与三郎。半殺しの目にあい、傷だらけの迫力のある姿になったため、ハッタリのきいた(切られ、というのは不名誉な名のような気もするが)あだ名を得た。


    これで一分いちぶじゃ
    ここでいう一分はお金のこと。当時の貨幣単位で、一文、一分、一両などがある。一文無しとか、千両役者とか、ほかの単位は今でも言葉として残っているが、「分」は、今では五分五分のように、割合のほうの単位しか残っていないのでピンと来ない。
    現代の感覚の設定に置き換えると、お富さんは1万円札を差し出して、昔の男にお引き取り願おうと仕向けたが、主人公は「これっぽっちじゃ帰れねえな」と言っているわけ。


    現在入手可能な音源

    【オムニバスアルバム】
    にっぽんの流行歌-14 お富さん

    にっぽんの流行歌-14 お富さん

    Amazon



    ライブはもう見ることができないので、映像をどうぞ


    www.youtube.com

    脚注

    *1:【元ネタは歌舞伎】与話よわなさけ浮名うきなの横櫛よこぐしという演目らしい。そういや、小説家・隆慶一郎の絶筆のひとつ『銚子湊慕情』にも、同じエピソードを扱った話が出てくるが、あまりの雰囲気の違いに面食らう。