柳の下にドジョウはウジャウジャといたようで、
前年の『スーダラ節』が、ヒットの勢いを得て映画化*1し、
さらにつづけての映画『ニッポン無責任時代』の主題歌(のひとつ)となったのがこれ。
つづけて、といっても実際は間にもう2作映画があるらしいが、
実際のところどれも歌以外はよく知らない。
歌ありきの作品、というのがよくわかる。
一応そのタイトルを発表順に挙げておくと、
『スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ』
(1962年3月公開。主題歌『スーダラ節』 by
)
『クレージーの花嫁と七人の仲間』
(1962年4月公開)
『サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ』
(1962年5月公開。主題歌『ドント節』 by
)
『ニッポン無責任時代』
(1962年7月公開。主題歌『無責任一代男』 by
)
なお、いわゆる「クレージー映画」と呼ばれるものは、
どういうわけか東宝配給の『ニッポン無責任時代』が1作目とされるため、
表題曲とカップリングの『無責任一代男』が、
初のクレージー映画のメインテーマ曲ということになっている。変なの。
ともかく、毎月のように新作映画が公開*2される勢いそのままに、
この曲で紅白歌合戦に出場となった。
なんといっても注目すべきは、植木等の表現力。
歌唱力、というよりは表現力というほうがしっくりくる。
「♪あなただけが 生きがいなの・・・」
サックスに導入される、フランク永井ばりの低音のムード歌謡からスタート。
このあとに続く展開を考えると、かなりタチが悪い。
「♪・・・てなこと言われてその気になってぇ↑」
まくしたてるように早口におちゃらけ、
「♪退職金まで前借し 貢いだ挙句が!」
畳みかけるように最高潮に達し、
気合の抜けた脱力のキメ台詞。
「♪ハイ、それまでョ~」
「♪ふざけやがって この野郎!」
怒りの歌唱と怒涛のブラスサウンドが畳みかける
2番以降の歌詞がもう少し練られていれば、
『スーダラ節』 のようにもっと後世まで知られただろうに*3惜しい。
それを認識してかどうか、後に出たヒットメドレー
『スーダラ伝説』(植木等/1990年/ by
)では、1番と3番の歌詞を
組み合わせて歌っている。
グランドフィナーレは
「♪泣けて くゥる~」
泣きの歌唱で締めくくられる。
ところで、この曲はクレージー・キャッツの曲なのか
植木等の曲なのかがはっきりしない。
アルバムではクレージー・キャッツ名義になっているものばかりだが、
当時のシングルジャケットを見ると植木等名義になっている。
どうしてかしら。
どうでもいいのかしら。
たぶん後者。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
やはり植木等の歌唱に尽きる。
ついつい、ニール・セダカ*4よろしく、語尾の声をひっくり返りつつ、
七変化を繰り返す植木の歌唱が
これでもかこれでもかと襲い掛かってくる。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
金のなる木
放っておいても次々と利益を生み出すものの例え。
割合古い表現のようで、少なくとも江戸時代から使われている慣用表現のようだ。
枝の節々にに5円玉を差して育て、あたかも金がなっているように見せる
通称「金のなる木」、フチベニベンケイという多肉植物があるが、
それのことではない。
その金の生る木は、金が増えることはなく、
5円玉を付けたら、やがて取れなくなって使えなくなるだけだ。
三人前
今更解説するまでもないが、ちょいと不思議な表現なので一応書いておく。
ここでいう「前」とは「分」と同義で、三人分の量、という意味だ。
独り立ちしたことを「一人前」「いっちょまえ(一丁前)」というが、
人並みであることが一人前なので、人の3倍という意味でもある。
書いていて、何を当たり前のことを、と思ってしまったが、
「前」というのは不思議な表現だよなぁ。
当たり「前」もそうだよな。
現在入手可能な音源
ライブはもう見ることができないので、映像をどうぞ
脚注
*1:【映画化】この時代は、受けたものは何でも映画化された。現代──というかもうすでに過去の事象になっている──でいうと、何でもかんでもゲーム化されることに似ている。どうやら、その時代で一番ポピュラーなエンターテイメントに昇華されるのが流行というもののパターンらしい。なんでも映画化される風潮は、21世紀に入ってリバイバル傾向にあるが。
*2:【毎月のように新作主演映画が公開】1962年にはそのあとも、『私と私』(8月)、『夢で逢いましょ』(9月)、『ニッポン無責任野郎』(12月)と、主演・助演作が公開されている。
*3:【後世まで知られただろう】なんといっても、少なくともこの記事を書いた時点でwikipediaにもページがない
*4:【ニール・セダカ】『恋の片道切符(One Way Ticket)』(1960年。なぜか日本でのみヒット/ by
)が有名。日本で「チューチュートレイン」という言葉が知られるきっかけになったと思われる。