通常「和製ボブ・ディラン」といえば吉田拓郎のことを指すが、いやいや和製ディランであれば、むしろ井上陽水のことだろう、と常々思っている。
これはどうやら、世間の持つボブ・ディランのイメージと、自分の持つボブ・ディランのイメージに隔たりがあることから来ているらしい。
自分のイメージするディランといえば、第一に「偉大なる詩人先生」であり、あの崩した歌い方は、ディランのその次の特徴であるという認識だからだ。
※後日注:この稿を書いた翌年に、ディランがノーベル「文学賞」を受賞したことで、一概に自分の感覚がずれていたのではないと知り少し安心した。
さてディランのことはさておき、井上陽水。
この日本の偉大なる詩人先生の書く詞には、
メッセージ性があったりなかったり、それどころか意味さえもあったりなかったり。
井上陽水本人の印象にしたって、天然っぽいけど、ひょっとして実は計算しているのかもしれないとも思え、ふざけているんだか本気なのかがさっぱりわからない。
デビュー時の芸名が「アンドレ・カンドレ」だったこと一つとっても、狙ってるんだか天然なんだか、と考え込んでしまうようなぶっ飛び具合で、いっそ天才、鬼才、と称した方が人聞きはいいかもしれない。
テレビや伝聞なんかの印象としてピュアな人物である感じがするので、至極いい意味での「天然」と称したいと思う。
呼び方はともかく、常識を超越した言葉を操る魔術師という印象である。
「♪都会では自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた
… だけども問題は今日の雨 傘がない」
『傘がない』(1972年/
)
「♪窓の外にはリンゴ売り 声を嗄らしてリンゴ売り
… きっと誰かがふざけて リンゴ売りのフリをしているだけなんだろう」
『氷の世界』(1973年/
)
「♪ホテルはリバーサイド 川沿いリバーサイド
… 食事もリバーサイド Wowowoリバーサイド」
『リバーサイドホテル』(1988年/)
「♪白のパンダをどれでも全部並べて ピュアなハートが夜空で
… はじけ飛びそうに 輝いている 火花のように」
『アジアの純真』(パフィー/1996年/)
うーーん。なんだこれは。意味深なのか?やっぱ天然なのか?
そんな中において、この『少年時代』の歌詞はしごく真っ当な部類に入る。
元々は藤子不二雄Aから、同名漫画の映画化の際に主題歌として依頼され、藤子から渡された歌詞に曲をつけるところがスタート地点だったためと思われる。
もっとも、藤子の歌詞は原形をとどめないほど改変され、タイトルしか残らなかったようだ。*1
そういえばタイトルは、歌詞中にその一文字も登場しない。
「♪夏が過ぎ 風あざみ 誰の憧れに彷徨う」
そんな一見真っ当っぽい中でも、陽水らしさが垣間見える。
「風あざみ」「宵かがり」「夢花火」などは、それっぽい言葉であるものの、造語に近く意味がほとんど解らない。
共通点は
a za mi、ka ga ri、ha na bi
と、ア・ア・イの母音で形成された語であることだ。
音の響きだけから言葉を作り出して並べているとしか思えない。
だからここは、
畳でもいいし、サラミでもいいし、肌着でもいい。
中身、鼻血、ハサミ、辛子、仲居、サライ、破壊、朝日、でもいい。
おおいくらでも出てくるな。
飾り、浅葱、タタキ、周り、花見、ささみ、タダ見、若い、赤い、辛い、粗い、高い、ヤバい、パない、馬刺し、タライ、赤字、ガタイ、だまし、他界、マタギ、マサイ、ハワイ、高木(誰?)、正輝(神田?)、奈良井(中山道?)、、、
ひつこいのでやめる。
そんな中から、言葉の持つイメージが良いものを選りすぐったのだろう。
だから、浅葱や飾りあたりでも何ら問題なかったと思う。
けど偉大な詩人先生は、風には「薊」、宵には「篝」、夢には「花火」を選んだ。
風になびくアザミの花、
夕闇を照らすかがり火、
夢を彩る花火、のイメージだろうか。
おっと末尾が、花、火、花火、となった。こりゃ偶然だよな。たぶん。
一か所だけ、同じフレーズの場所に
「残された(sa re ta)」という言葉が使われている。
つまりは音節にこだわった結果ではなく、たまたまインスピレーションの結果からそうなっただけ、なのだろう。
やっぱ天然モノなんだろうか。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
この曲、歌い方が難しい。
あの、ぬたっとした(どういう表現だ)歌い方をしないと、この歌自体が全然成立しないのだ。
いきおい、モノマネのようにならざるを得ない。
さもなくば、音符通りに平坦に歌ってつまらない曲と化すだけだ。
つまりは陽水は、偉大な詩人先生であると同時に、偉大なるボーカリストでもあるわけだ。
カバーアルバム*2を、ヒットアルバムたりうるものに変えた先駆者でもあることも、妙に納得してしまう。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
全文日本語訳行ってみよう。
今回はいつも以上に勝手な解釈になっているので注意。
風がふいている。
アザミの花がゆれている。
夢と希望が詰まった、
これはいったい誰の記憶だろう。
夏の空を見て思い出した。
ああ、これは私の夏の記憶だ。
・・・夢を見ていたようだ。
思えば、今、私は長い冬のような時代を
過ごしているのかもしれない。
心の内のあこがれは、奥底に固く閉じ込めてしまった。
あのころの夢や希望は、もはや想い出の中にしかない。
夏祭り。夕闇に焚かれた篝火。
胸のドキドキが最高潮に達したころ、
夏の終わりを告げるような花火を迎える。
そう、これは私の夏の記憶。
・・・目を覚ましてみれば、
あの夢みていた時代は遠い昔。
暗闇が影を伸ばして
夢は星屑の彼方に消えてしまった。
あのころの夢の景色は、想い出の中にしかない。
夏が過ぎてゆく。
風がふいている。
アザミの花がゆれている。
夢と希望が詰まった、
これはいったい誰の記憶だろう。
夏の終わりを告げる花火を迎える。
そう、これは私の夏の記憶。
・・・ナンダコレ?
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