日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『駅』 竹内まりや ~ 別れても好きな人、にならなくて本当によかったと思う

メロディーを無視して伴奏だけ聴いていると、

なんだかものすごく不穏な空気が流れていることに気付く。

ドッド、、、、ドッド、、、と、

ゆっくり迫りくるようなバスドラムの音や、

時折不協和音のように1拍だけ挟まれる、違和感のあるコードなど、

まるで謎めくのサスペンスシーンのBGMのようで、

明るい声質の竹内のボーカルが無ければ、

かなり違う印象の曲になっていたことだろう。

 

思うにこれは、主人公の「後ろめたさ」を表現しているものなのではないか。

別れてからの「2年の月日が変えたもの」は、

彼は、“まなざし”→ 内面であり、

主人公である「私」は、“この髪”→ 外見であることから、

別れによって精神的ダメージを被ったのは、主に彼の方で、

気分を新たにすることが出来たのは、主に主人公の方だということが察せられる。

 

つまりは、相手を捨てたのは主人公の方、なのではないだろうか。

 



アルバムジャケット/駿河屋より
駅 <30th anniversary mix>

駅 <30th anniversary mix>

これは中森明菜によるオリジナル。竹内のは実はセルフカバー。
  • 作詞・作曲 竹内まりや、編曲 山下達郎
  • 1987年(昭和62年)8月12日、アルバム「REQUEST」に収録
  • 歌詞はうたまっぷへ:駅 竹内まりや 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:駅 (曲) - Wikipedia
  •  

    もっとも、男女の間に限らず、人間同士のいさかいなんて、

    どちらかが一方的に悪いなんてことは、よほどの例外を除いて無いのが常であるが、

    ここでいう「♪こみあげる苦い想い出」とは、

    つらかったり悲しかった想い出というよりは、

    過去の自分に対する、後悔混じりの罪の意識の表れに思えてならない。

     

    「♪言葉がとても見つからない」のは、

    今更どのツラ下げて声をかければいいかわからないのであって、

    裏切られたことを思い出して、言葉が出てこないのではないのだ。

     

    言葉が「見つからない」と、言葉が「出てこない」。

    似たような表現だが、このニュアンスの違いを重要視したい。

     

    そう思ってあらためて全体の歌詞を見ていれば、

    「♪今になってあなたの気持ち 初めて解るの 痛いほど 私だけ愛してたことも」

    の解釈にしても、「私だけ愛していた」という解釈は成り立たず、

    「私だけ愛していた」という解釈が正しいことが自明となる。*1

     

    ・・・ま、これまでさんざん言っているように、歌詞の解釈なんて

    前提ひとつでどうとでもなるんだけどね。

     

     

    ところで、駅で見かけたレインコートの男を

    彼と確信する決め手となったのが、「早い足取り」。

    これが別れの原因を暗示しているような気がしてならない。

     

    黙って俺について来い、的な男だったのだろうか。

    「♪あなたがいなくても こうして元気で暮らしていることを さりげなく告げたかった」

    主人公は、彼についていくことが出来なかったのだ。

     

     

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    「駅」

    さて、この曲のタイトル『駅』であるが、歌詞をよくよく読み進めると、

    「たそがれの駅」と「改札口を出る」駅は別の駅だと気づく。

    なぜなら、その途中で「♪ひとつ隣の車両に乗」って移動しているからだ。

    同じ改札口に向かっているので、まだお互い同じ町に住んでいるのだろう。

    「♪待つ人の元へ戻る」最中なので、出先で見かけたのではなく、

    帰宅ラッシュアワーの帰り道で見かけたということもわかる。

    同じ街にいながら2年もすれ違わなかったことから、

    人混みに紛れがちな、比較的都会の光景なのだろう。

    そんな風に、少ない描写からも、いろいろなことがわかってくる。

     

    なお作者本人によると*2、この駅は

    東急東横線の渋谷駅をイメージしているらしいが、

    おそらくそれは「たそがれの駅」のほう。

    渋谷駅で足早に急ぐ彼を見かけ、同じ列車に乗り、同じ駅で降りたのだろう。

     

    だとすれば、だ。

    もし渋谷駅で声をかけていたならば、

    あやうく『別れても好きな人』(ロス・インディオス&シルヴィア/1979年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード

    と同じシチュエーションになってしまうところだった、ということだ。

    「♪別れた人に会った 別れた渋谷で会った 別れた時と同じ雨の夜だった」

    曲のイメージが違いすぎて、思わぬ状況の一致がなんだかとても面白い。

     

     

    ところでもっと関係ない話になるが、

    以前この渋谷駅にて、朝のラッシュ時に

    自転車にまたがったまま電車に乗っている輩を見かけたことがある。

    渋谷駅に着くや、そのままホームを自転車で走り、

    人ごみの下り階段を器用に下りていったが

    彼は無事あのまま改札を抜けられたのだろうか。

    そして、迷惑そうにしながらも、誰一人として

    彼を相手にしようとしなかったことが、強く印象に残っている。

    都会のラッシュアワーにおいては、

    他人は単なる風景でしかないのだろう。

     

     

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    脚注

    *1:痛いほど解るのか、痛いほど愛していたのか、についてははっきりしないのだけれども

    *2:正確には、夫でありプロデューサーである山下達郎談。ずいぶん長いこと放送しているFM番組、「サンデーソングブック」内での発言による。時々しか聴かないので詳しくは知らないが、年に1,2回くらいのペースで竹内まりやもゲスト出演していたように思う。