ウルフルズにとってのそれは、
古きよきロックンロールに、現代の演奏テクニックを導入することであり、
ゆずにとってのそれは、
古きよきフォークソングに、ポップスのリズムを導入することであり、
チェッカーズにとってのそれは、
古きよきロカビリーに、少年の青さを導入することだったのだと思う。
いずれもオールドスタイルの楽曲を下敷きにしつつ、
それにひと味加えることで確固たる地位を築いた面々だ。*1
古きを知る人にはノスタルジイを、知らぬ人には見知らぬ新鮮さをあたえるが、
多くの人にとっては、そんなことに気づくこともなく、
ただただ純粋に楽曲を楽しむことになる。
『涙のリクエスト』にしても、ロカビリーとドゥワップのあいの子のような曲調で、
そうとは知らない若者たちをキャッチ―なメロディーで引き込んだ。
チェッカーズはこの曲以降も、思わずニヤリとしてしまうような
懐古趣味的な曲調をバックボーンにしたヒット曲を重ねていく。

歌詞の方に目を向けてみると、これまた懐古趣味全開で
なんでか映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の過去場面が思い浮かんでしょうがない。
現代の視点で見れば、もはやダイヤルを回す電話機なんか、冗談でしか存在しないし、
はがきでもなくEメールでもなく、電話口でリクエストとメッセージを募る
ラジオ番組なんか、存在していたことすら疑ってしまうくらいだ。
とにもかくにもこの主人公が、公衆電話から電話をかけるところから
物語がスタートする。
当時携帯がなかったというのは分かるが、何故公衆電話から?という疑問に
いくつか理由を考えてみる。
ひとつは、寮住まいであるために、
共同のピンク電話*2からかけている状況。
ひとつは、実家住まいのために、
家族に聞かれると嫌なので、外に電話をかけに行っている状況*3。
どちらももありがちで、どちらが正解でも構わないと思う。
きっとほかにも正解があるだろう。
ただ単に外出先、例えば失恋のショックから頭を冷やしに出かけた、
真夏の夜空の下、そこでの単なる思い付きなのかもしれない。
海辺に来ているようなので、その可能性も大いにありだが、
ラジオを持って出かけているのがかなり不可解。
車で出かけてカーラジオをつけているのかもと思うが、
それを「トランジスタ」と称するのにはいくらか無理がある。
まあとにかく、そんな状況のもと、
主人公は彼女との思い出の曲をラジオ番組にリクエストする。
他の男にとられ、一方的に別れを告げられた彼女と、
初めて踊った想い出の曲。
あああ、男ってホントに駄目ね。
ところでこの曲、「リクエスト」という言葉が
ダブルミーニングになっているのはお気づきだろうか。
1番の歌詞ひとつ目は、すでに述べたように、ラジオ番組への楽曲リクエスト。
あわよくば彼女に聴かせて、初々しいころの気持ちを思い出してほしい、という目的のもの。
そしてもうひとつは
「♪いいさそいつと抱き合いながら 悲しい恋を笑ってくれよ」
君に対する、自虐的な要求。
どっちも英語で”request for you”だが、
前者のrequestは名詞で「あなたのためのリクエスト」、
後者は動詞で、「あなたへのリクエスト」だ。
2番の歌詞も同じように見てみよう。実はこっちはちょっと怖い。
ひとつ目はやはり楽曲リクエストだが、
彼に振られたら、今の自分と同じように深夜ラジオに同じ曲をリクエストしろ、というもの。
そしたら夜中に君お前を迎えに行くからさ、というなんとも未練がましい言葉。
ひょっとすると、これがラジオに寄せたメッセージなのかもしれない。
そしてもうひとつは
『♪サヨナラ代わり(に) 二人に贈る 悲しい恋のリクエストだよ』
これからの二人の前途が悲しい結末になりますように、という願い。
まさにダブルミーニング、ってやつで、一つの言葉に二つの意味を重ね合わせている。
隠された呪詛、という感じで、それに気づいた時のうすら寒さと言ったらない。
「♪ひとこと言ってもいいかな? くたばっちまえ アーメン」
ほど直截的ではないのが、なおのこと怖い。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
銀のロケット
彼女にピッカピカの打ち上げ機を贈ったわけでは、もちろんない。
君のために奮発して宇宙旅行をプレゼントしたぜ?
だけどシートには僕じゃない写真が飾ってある。Why!?
果たしてそれはロケット違い。ROCKETではなくLOCKET。
ペンダントトップが開閉式になっていて、開くと写真が入れてあったり、
ピルケース(薬入れ)なんかにしてあるものを、ロケットペンダントという
lock→錠+quet(ket)→身に巻き付けるもの くらいの意味だろうか。
これがあるから、微弱電波から取り出した波形を、大きな音に変換することが出来る。
ちなみにそれまでは真空管を増幅器として使ったラジオが主流だった。
そしてラジオにわざわざ「トランジスタ」と付けているのは、
それが特殊なものであるがため。
テレビが白黒が主流だった時代には「カラーテレビ」とよばれていたものが、
いまでは普通に「テレビ」と呼ばれ、だれも「カラー」を付けないのと同じ。
つまりは、真空管ラジオからトランジスタラジオに移行した時期、
それが舞台の時代背景であると推測できる。
トランジスタ式のラジオが普及するのは昭和30年代(1955年~1964年)のこと。
おっと、本文中でふれたバック・トゥ・ザ・フューチャーの過去エピソード、
1955年とぴったり合致するではないか。
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