たしか中学2年の時だったと思う。
英語の授業においてトンデモないことが流行した。
たとえば、日本語訳が『Aが~すると、決まってBは…になる』
という英語構文があったとする。
この「~」を「ピー」、「…」を「プー」などと読むのだ。
たったそれだけのことではあるが、
『Aがピーすると、決まってBはプーになる』
まあ、なんということでしょう。
つまらないハズの英語の文法が、実に意味ありげで素敵に危険な言葉に
変貌を遂げるではありませんか!
・・・今考えるとこれは大変やばい。
当時でも相当に女子連中に大ヒンシュクを買っていたはずだが
そんなこととはつゆ知らぬ、何も考えていないヤロー達の間でこれが大流行した。
もちろん、厳粛なる授業中にこれをブッ込むには相当の根性が必要なわけで、
授業中にわずか一回くらい、ほんのちょっとの勇気を振り絞った鉄砲玉がこれを敢行する。
今思えば、そんな勇気は別のところで発揮すべきだと思う。
なお、このボケに対して、周囲は決して大っぴらに笑ってはいけない。
それはある種の不文律で、
あくまで読み手の読み方がちょっとおかしいだけで
至って真面目に授業を遂行している風を装う。
だからみんな、笑いをこらえて息をひそめて笑うのだ。
やがていけないことに、この流行は別のクラスにまで飛び火した。
当然の結果ながら、これは教師連中でかなりの問題になったらしく、
おそらく職員会議の議題にでも上がったのだろう。
しばらくして、学校側の公式見解が提示された。
「今後、『~』は『にょろ』、『…』は『テンテン』と読むことと決定します!」
何も知らずにこの訓示を受けた真面目な生徒諸君においては、
果たして何ごとが起きたかと思ったことだろう。
ああ、この強烈な面白さをうまく伝えられないのがもどかしい。
自分の筆力のなさにげんなりしてしまうが、遂にはこの公式発表の結果による
『Aがにょろにょろすると、決まってBはテンテンになる』
と読むことさえ、とんでもなく面白くてしょうがなくなってしまったのだ。
面白過ぎて腹がよじれ、授業が終わり教師の退出した足音が遠くなったころ、
ドッカンとむせかえってせき込む始末。ひー、もうアカン。勘弁して(笑)
なお、当時は『ピー』とか『プー』しかバリエーションがなかったが、
今だったら『ズキューン』とか『チョメチョメ』とか、いろんなパターンが考えられる。
『Aがチョメチョメすると、決まってBはズキューンになる』
口で言うのだけではなく、
スマホとかで『ズキューン』と効果音をブッコむのもアリかもしれない。
だけど現代にこれをやったら、たぶんいろいろと問題になるので
よい子は決して真似しないように。セチガライねぇ。
・・・いったい何の話だろう?
これは、My Little Loverの曲『ALICE』に出てくる
言葉にならない記号による文章による連想から来た脱線なのだ。
『Alice』では、曲の途中、歌詞か文字化けを起こす。
「♪ *✙♥☆♠△×□ って意味を越えている」
意味ある語を超越して意味不明になっていることを表現しているのだろうが
これはいわゆる伏せ字になっているのだ。
伏せ字と言っても、放送禁止用語や差別用語、下劣な言葉を解るように隠す*1
卑劣な手段とはちと違う。
何かを言いたいんだけど、そこは受け取り側の想像におまかせするという手法。
これは結構昔からある手法で、
よしだたくろうは、「♪人間なんて ララララララララ」と
投げやり気味に歌い、
(『人間なんて』 1971年/ by)
山口百恵は、「♪あなたの○○○○が欲しいのです 燃えてる××××が好きだから」
とマイクを外して口をパクパクさせ、
(『美・サイレント』 1979年/ by)
うしろゆびさされ組*2は、「♪渚の「・・・」」
と無音を「かぎかっこ」という言葉に置き換え、
(『渚の「・・・」』 1986年/ by)
そしてMy Litte Loverは、「♪*✙♥☆♠△×□ って意味を越えている」
と文字化けのような記号の羅列になってしまった。
1音ずつ逆さにして、「♪ギリギリな、ギリギリな」と歌っているのかもしれない。
いずれも、聴き手の想像に任せるがままに
種明かしがされることはないが、ちょっとスケベな言葉で埋めたくなるのも事実。
ちなみに、3回現れるこの言葉は、すべて文字順が異なる。
*✙♥☆♠△×□
☆♥□×✙♠*△
♥△*✙×□♠☆
特に意味はないようだけれど。
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ここで思い出したのが、越谷オサムの小説『いとみち』。
聞き取り困難なほど強烈な津軽弁を喋る祖母のセリフが、
同じように記号の羅列によって表現されている。
例えば「ϒ∽☆∽∠」のように。
文中では、前後の会話の流れから何と言っているのか
推測できる仕組みになっているので、
記号でも一向に読み進めるに差し支えないのだが、
巻末に、これらの記号と50音の対照表が載っていて、
なんと喋っていたかわかるオマケのような種明かしがある。
ちなみに、「ϒ∽☆∽∠」は「いまひまか(今暇か)?」
越谷オサムは「歌」をモチーフにした小説を多く書いているので、
『Alice』よりもずっと後に発表されたこの小説で、
もしかしたら越谷なりの『Arice』の伏せ字の解釈があるのでは?
と対照表に照らし合わせてみたが、記号の半分ほどは50音表になかった。
チッ、違ったか。
なんだかこの稿、余談ばかりでちっとも曲の内容に触れていない。
これではいけないとは思いつつも、だいぶ長くなってしまったので、
ここらで締めてしまいたいと思う。
最後に、曲の冒頭で何やら喋っている内容。
逆回転すると意味が解るらしいので試してみた。
※13秒あたりから逆再生になります※
「私が森の中を進んでいくと 時計は反対に回っていた。」
なるへそ。
サウンドもそうだけど、逆回転をもってくるあたりにも
小林武史のビートルズへのオマージュがあふれているよね。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
アリス
言わずと知れた、ルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』の主人公。
アリス、という物語から、いったいいくつの別の物語や歌などの作品、
バンド名やお店の名前など、数えきれないほどの派生品が生まれたのだろう。
この歌でも、森や鏡、キラキラ光る、不思議、迷い込む、
と言ったいくつものキーワードを導き出している。
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