やけに耳障りな音だ。
不安になるような不協和音とは違う、人の息遣いを感じない電子音とも違う、
もっと実在的で、物の気配を感じ取れるような音。
まるで機械がけたたましく連続音を発生させる、町工場の界隈のような。
そう、喧噪という言葉がぴったりかもしれない、尖ったガチャガチャした音。
人の営みが作り出す、騒々しく耳障りな音の数々。
自分にとって、この曲は、そんなイメージがある。
うなり上げるベース、金属音のようなドラムス、空気を切り刻むようなストリングス*1、
そして町内放送のスピーカーから流れるような、椎名林檎のくぐもったボーカル。
ゼンブ解っていて耳障りにしているようにしか思えない。
だけど面白いことに、椎名林檎のボーカル以外にひずんだ音はほとんどなく、
それぞれ輪郭のはっきりした乾いた音だ。非常にクリアでシャープな音。
それなのに、それなのにやけにノイジー。
スタイルとしては、アンプやエフェクターを介さない音の時代、
20世紀前半の音に通じるものがある気がするが
マイクロフォンやスピーカー、録音機材が貧弱だった当時と異なり
楽器の素材自体が立てる音、金属や木材を引っ叩いたような音をリアルにとらえていて、
決して新しい音ではないのだろうが、妙に新鮮に聞こえる。
「れ」の発音が全部「Rrrrrrrrrrre!」になってしまっていて
ドイツ語かよ!と突っ込みたくなるが、そんなことは置いておいて
歌詞の方を眺めてみたいと思う。
コムヅカシイ言葉を駆使しながら、もはや暗喩とは呼べないくらい、
ほとんど直接的にエロティックな言葉を並び立てる。
「♪もっと中まで入って 私の衝動を突き動かしてよ」
なんて、ほとんどまんまな表現だけれど、実際のところは
上っ面の言葉を並び立てるんじゃなくて、
もっと心の奥から湧き出てくる思いをぶちかましてほしい、
てな意味合いの方が大きいと思う。
「♪どうして 歴史の上に言葉が生まれたのか
『太陽』『酸素』『海』『風』 もう十分だった筈でしょう」
身の回りにある、必要不可欠なものの概念*2以外の言葉を
生み出した瞬間から、人間の欲望が生まれたという
観点で書かれているんだじゃないかと思うんだよね。
直接的に書かれている性欲をはじめ、
破壊欲や所有欲、征服欲といったものが歌詞に見え隠れしている。
動物的な欲求というよりは、知恵を得たために発生してしまった欲望。
そういうのをひっくるめた『本能』なんだろうな。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
「正しく舐め合う傷は 誰にも咎められない 紐解いて 生命に擬う」
後半を無理に意訳すると「都合よく解釈して、命の意味に結びつける」
くらいの意味だろうか。
全体としては、共依存関係の言い訳を、人間の性に求めている、
というような意味合いだろう。
あらら、歌詞につられて難しく言いすぎだな。 これをざっくばらんにかみ砕いて言うと、
お互いマイナスにしかならないような、ダメダメな恋愛関係を正当化しようとして、
これが人間だからしょうがないよね、と言い訳している状態のこと。
「朝が来ない窓辺を求めている」
「虚の真実を押し通して絶えてゆくのが良い」
どちらも何とも退廃的な言葉で、つまるところは未来の否定なんだろう。
朝が来ない窓辺とは、永遠に明けない夜のことだろうし、
虚の真実とは虚構の世界や出まかせのことだろう。
一般的な言葉で言いかえれば、「無理を通せば道理が引っ込む」。
「全部どうでもいいと云っていたいような月の灯」
この辺は少しロマンチストが入っている。
月明りに見惚れ、嫌なこともすべてどうでもよくなるというが、
一種の現実逃避とみることもできる。
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