日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『ラズベリー・ドリーム』 レベッカ ~ フィーリングで演り、フィーリングで聴くべし

カッティングと残響音のコントラストを利かせたギターによる導入から、
間をおいて、跳ねるようなドラムが、続いてピアノとベースがフィルインしてくる*1
そしてNOKKOの抑えつつも勢いのあるボーカルを迎えるころには
いかにも、バンド然、とした王道のサウンドが繰り広げられる。

新鮮さはないが、これが実に心地よい。

新鮮さがない、という表現にはいささか語弊があるかもしれない。
日本にバンドブームを巻き起すひとつのきっかけになったという
レベッカという、このバンドのサウンドこそが、
その後のロックのスタンダードな音になったというほうが正しいのかもしれない。


ところどころ英語交じりの歌詞も、いかにもという感じで、
今も脈々とJPOPに受け継がれているように、日本語と英語の境界は実にあやふやだ。
日本語だと思っていたら英語だったり、英語だと思っていたら日本語だったりする。

「♪今夜も月が見てるら」
どっかの方言にも聞こえる、この「ら」も、
たぶん「LIE」とか、そういう何らかの英単語なんだろうと思っていたが、
歌詞カードを見ると「見てるわ」。
うむ。ここは日本語だったらしい。



相も変わらず、話がアサッテの方向への飛翔を見せて大変申し訳ないが、
個人的な経験則からすると、ネイティブの人の話す英語よりも
英語圏ではない国の人の話す英語のほうが、圧倒的に聞き取りやすい。*2

会話ともなると、その違いは歴然としていて
互いにカタコトであるがゆえに、自然とゆっくりと、かつ簡単な単語メインとなる。
話半分も通じない前提の会話なので、正確に通じていなくても
まったく差しさわりないのがありがたい。
かくして、気分だけでも意思疎通した実感を得ようと思うなら、
母語英語圏以外の人間に限る。
ネイティブスピーカー相手では、ほとんど敗北感しか得られないから。

かつて長野五輪会場において、同じフロアでスタッフとして働いていた
流ちょうな英語を話すイスラエル*3なんかより、
会場近隣に急造された居酒屋で、たまたま行き会った酔っぱらいのフィン人のほうが、
断然意思疎通出来たように感じた。*4


さて、この理論からすると、母語に英語とは似ても似つかぬ
日本語という言語を有する種族の歌う英語は、さぞかし聞き取りやすいはずだ。
それがどういうことだ。前述のようにこの曲に限らず、
日本人ロッカーの英語は、何を言っているのか
全く聞き取れないものが少なくない。

「♪ラズベリードリィ~ン 口元絡みつき」(違います)
「♪ラズベリードリィ~ン 胸元までセクシービーム!」(まったく違います)
「♪ラズベリードリィ~ン 腰付きまで ほぅ謝謝しぇいしぇい」(そんなこと言ってません)


ラズベリー・ドリーム[EPレコード 7inch] シングルジャケット/amazonより
Raspberry Dream

Raspberry Dream

 
  • 作詞 NOKKO、作曲 土橋安騎夫、編曲 レベッカ
  • 1986年5月2日、CBSソニーより発売
  • オリコン最高位4位 年間40位(1986年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:ラズベリー・ドリーム REBECCA 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:RASPBERRY DREAM - Wikipedia


  • 英語の歌詞は、メロディーに乗った瞬間に頭でっかちな語学的認識から解放されるっぽい。
    メロディーを追うことに気を集中するあまりに
    小難しい発声よりも、フィーリングが重視されるためだろう。
    メロディーに置いてかれたら、何やってるかわからなくなるからね。

    だけどそれって、実際のコミュニケートには重要なことなんじゃないかと思う。
    案外、英語ペラペラな雰囲気だけでも目指すのならば、
    言葉を歌にのせてみるのが、かなり有効な手段ではないだろうか。
    通じる通じないは別として。

    英語でもロックでもないが、実例を挙げてみよう。
    『浪花恋しぐれ』(都はるみ岡千秋/1983年/ by )においては、
    大阪弁の喋れない岡千秋が、イントネーションを習得するために
    セリフ部分を譜面を落としたのだという。
    「なんやその辛気臭い顔は 酒や 酒や 酒買うて来い」
    これがどういう譜面だったのか、少しだけ興味がそそられる。



    さて、ほとんど唯一まともに聞き取れる、というよりは
    タイトルになっているがゆえにヒアリング可能になっている英語、
    「Raspberry Dream」。
    さて単語は聞き取れたが、困ったことに今度は意味が分からない。

    ラズベリーは知っている。日本語でいうところの木イチゴだ。
    日本に自生するクマイチゴやモミジイチゴといったノイバラ類の近縁種で、
    こじゃれた洋食器の柄などにも見られる、
    小さな丸いつぶつぶが寄り集まった、赤や黄色の果実のことだ。

    ここから単純に類推するならば、甘酸っぱい夢、と訳したくなるが
    歌詞の内容からすると、甘酸っぱいばかりじゃなさそうな雰囲気がプンプンする。

    それもそのはず、Raspberryには、俗に「ブーイング」のような意味があるらしい。
    言われていれば、米アカデミー賞の裏で、しょうもない映画に贈られる賞の名は
    ゴールデンラズベリー賞」だったことに思い当たる。


    つまりは、「ラズベリードリーム」とは、
    「くだらない望み」、「馬鹿げた願望」、くらいの意味を持つのだと思う。
    もしかしたら先に挙げた、甘酸っぱい夢物語というものとダブルミーニングになっていて、
    青春という時代の持つ、気恥ずかしいような願望を包括しているのかもしれない。





    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    鏡の前のStep and Step
    これもなんだか意味がぼんやりしていていてつかみにくい。
    Step by Stepではなく、Step and Stepになっているので、
    次々と同じステップを順々に進んでいるのではなく、
    一つのステップの次には、また全然違ったステップがあると解釈できる。
    鏡の前でひとつのステップを踏み、もう一つ違ったステップを踏む。
    月夜にダンスの練習でもしているのだろうか。


    そうすると、この曲の全体の解釈はかなりすっきりとしたものになる。
    ダンス・スターを目指す、たぶんティーンエイジの若者。
    日々の研鑽に努めつつも、自分の力だけではどうにもならないような
    運、魅力、勇気といったものが欲しいと願ってやまない。

    今はまるで野良猫のように、
    ストリートを舞台に、夕日をスポットライトに見立てることしかできないが、
    夢見るダンサーの卵の物語。


    案外ベタに見えて、これが正解かもね。
    「Hipに磨きをかける」、なんて言葉も
    べつに女性の魅力を武器に野郎を篭絡しようとしているイケイケの言葉ではなく、
    ケツ筋を鍛え上げて、キレのいい動きを作り上げようとしている
    ストイックな言葉として受け止めることができる。

    変に裏の意味なんか考えずに、シンプルなのが当たりか。






    現在入手可能な収録CD/視聴可能
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    ※該当曲を聴ける保証はありません。




    脚注

    *1:こういう、それっぽいことを書いているときは、かなり雰囲気だけの適当な表現をぶちまけているだけので、突っ込みも考えもせず聞き流してくだされ

    *2:聞き取りやすいからって理解できるわけではなく、分からないものは分からないと胸を張って言えるけども

    *3:奥さん日本人なので日本語はわかるらしく、こっちの言う日本語は理解しやがるくせに、返しは必ず英語だった。彼曰く、君たちは何年も学校で英語を習っているのだから、英語で問題ないはずだと。←英語のわかる人間に訳してもらった。何だかムカつく

    *4:金メダルは船木にくれてやるが、銀メダルはソイニネンがいただく、というようなことを言っていたのだと思う。実際そうなった。予言者だったのだろうか?