ある種、持ちネタのひとつとして、
ことあるごとに郷ひろみがエピソードを披露しているうた。
メロディーが先にできていて、
あとからそれに合わせて歌詞が加えられるという
いわゆる“曲先”*1の曲にあって、
先に聴いていたメロディーのよさに仕上がりを楽しみに待っていたら、
出来上がった歌詞のあまりのギャップに崩れ落ちた、という話。
だけど郷ひろみの歌って、もともとこういう少々ふざけた感じの、
もうちょっと良い表現を使えば、遊び心のある曲のイメージがあったので、
このエピソードの披露はかえって意外だった。
デビュー曲『男の子女の子』(1972年/試聴はこの先から)だって、
アイドルソングとはいえかなり恥ずかしい感じの歌詞だし、
『林檎殺人事件』(樹木希林とのデュエット/1978年/試聴はこの先から)
なんかサビが「♪フニフニフニフニ フニフーニ」だし、
『比呂魅卿の犯罪』(1983年/試聴はこの先から)なんてタイトルからして
ふざけているとしか思えない。
郷*2本人はいたって真面目なのだろうが、
彼を取り巻く周囲が、彼に対し、魔がさすかのように
いたずら心を起こしてしまうのだろう。
どこか、あれっ、と違和感や面白みを与える
フレーズを入られずには居られない、
そんな存在なのだと思う。
『セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)』(1980年/試聴はこの先から)
『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』(1993年/試聴はこの先から)
あたりは、実はカバー曲だったりする。
「♪イチ、ニ、サンバ ニイ、ニ、サンバ
お嫁、お嫁 お嫁サンバ」
何ともキャッチ―だけど、
何ともいたずらが過ぎるフレーズだろう。
それでも、全体の歌詞を見渡してみれば、
この部分がなければそんなにふざけた感じはしない。*3
若い女性たちに、
慌てないでもう一度よく考えて、これからが女の見せ所だよ、と
やさしく諭しているだけだ。
だけど、だけど、「お嫁サンバ」
しょーもない駄洒落が、かえってこのうたに
サンバのハッピーさを強調させる効果を与えている。
にも通ずる、
真面目にふざけたエンターテイメントこそが
郷ひろみの真骨頂なのだろう。
ひょっとすると本人がそうと意識していないだけで。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
途中で驚くべきことが起こる。
「♪あの街この街(あの街この街)日が暮れて」
「♪あの人この人(あの人この人)ウェディングベル」
と郷ひろみの歌を追っかけていたコーラスが、
あろうことか「♪あぁあーああー」と歌っている間に
「♪(それが大事それが大事)」
次の歌詞を先取りして歌ってしまっている。
まるで、郷が歌詞を忘れて「あぁー」でごまかしているのを
バックコーラスが、こっそり教えているかのよう。
追っかけのコーラスに、追い越される歌詞というのは
あまり聞いたことはない。*4
楽曲的なことで蛇足をもう一つ。
この曲は演奏がサンバのリズムにいまひとつ乗りきっていない。
これはイントロの最後、歌の始まる直前の
3連符が2回続くところなんかに明白で、
今のプレーヤーだったらもっとキレのある演奏をするのだろうと
勝手に想像してしまうが、
そうなると今度は、間違いなくホイッスルのやかましい音が
挿入されてしまうことは間違いないので、
それもどうかと思ってしまう。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
「お世辞じゃないよ」
おせいじ、と歌っているのはメロディーが一音多いせいか。おせじ。
「おせいじ じゃないよー」
「花の命はこれからなのに蕾のままでいいわと言うの」
「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」(林扶美子)
という句にもあるように
女性の人生を花にたとえる表現は、
どこから来ているのだろう。
『お嫁サンバ』では結婚を花の命、女としての
終わりとしてとらえている。
昔、日本生命の「ニッセイナイスデイ」のCM曲で「花の命は結構長い♪」
と歌われていて*5、そっちの方がホントだよな、としみじみ感じてしまう今日この頃。
「それが大事だよ」
「それ」ってどれよ、と思わず突っ込みたくなる。
直前の「♪一人のものにならないで」というのがそれにあたると思われるが、
そうなると『それが大事』(大事MANブラザーズバンド/1991年/ by)では、
「♪負けないこと 投げ出さないこと 逃げ出さないこと 信じぬくこと
ダメになりそうなとき それが一番大事」
「ダメになりそうなとき」が、一番大事ってことになってしまう。
ていうかそもそもこの歌、
嫁入り直前の女に、つい手を出そうとしてしまう、という
プレイボーイの不届きな内容の歌なんだよね。
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