いやいや、だって演歌だし、とか、だって千昌夫だし、とか
食わず嫌いしていないでこの曲を聴いてごらんなさいヨ。
びっくりするほど美しい曲だから。
出だしのオーボエとアコースティックギターの絡みと、遠くで聞こえる拍子木の音なんか、
日本人の心にズキューンと突き刺さって、涙ちょちょぎれそうなもんで、
それはまさに「紀行もの」のテーマ曲を彷彿とさせる。
それは大野雄二『光と風の四季』(1983年/「小さな旅」/ by*1)だったり、
それは服部克久『自由の大地』(1987年/「新世界紀行」/ by)だったり、
渡辺俊幸『新日本探訪のテーマ 』(1991年/試聴はこの先から)や
SENS『海神』(1988年/「海のシルクロード」/ by)、
喜多郎『絲綢之路』(1980年/「シルクロード」/ by)、
元道俊哉『日本百名山テーマ曲』(1994年/「深田久弥の日本百名山」/試聴はこの先から)
宗次郎『大黄河』(1986年/「大黄河」/ by)だったりする。
こいつらは、聴いてるそばから、ヒトの胸の奥をわしづかみにして、
さんざんいたぶってくれた挙句、
その日終日エンドレスで脳内にこだましやがるのだ。
さて、ちょっと面白いのが、視点の主。
歌詞にたびたび登場する「♪お父う」視点かと思いきや、
案外、残された子どもの心境を歌った歌だったりする。
千昌夫や吉幾三が歌っているせいで、どうしてもオヤジのセリフに聞こえてしまうんだよな。
「♪淋しくなるけど 慣れだや お父う」
しばらく離れ離れになる父親に向かって、子どもが気丈な言葉を投げかけているんであって、
けっして、一人で出稼ぎ行くのは、さみしいけど慣れたよ、というオヤジの言葉ではない。
(子どもに会えないことに慣れたなんて、父親は口を滑らせてはいけない)
「♪ストーブ列車よ 逢いだや お父う」
だから、列車のストーブを目の前に、まだまだ春が遠いことを感じて、
子どもが親父に会いたいといっているのであって、
オヤジが、故郷のストーブ列車を懐かしんでいるんじゃないんだって。
津軽平野、出稼ぎ、十三湊、ストーブ列車、津軽の雪に、
じょんがら節、そして、お岩木山。
そんな冬の津軽を描き切った、
ご当地ソング、というより、ふるさと紀行。
ほとんど無名の頃の吉幾三が作り、ヒット歌手の千昌夫が訥々と歌い上げた。
日本のふるさとを歌う、そんな津軽平野。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
津軽平野
津軽半島の西半分、弘前を中心とした平野で、日本最大のリンゴの産地。
ランドスケープシンボルとして、津軽富士こと岩木山がそびえる。
春は弘前公園の桜、夏は佞武多祭りでにぎわう。
津軽三味線と津軽民謡が有名で、中でもじょんがら節は、名前だけはよく知られる。
歌詞やメロディを口ずさめる余所者はあまりいないと思う。
日本海側気候のため、冬は雪に閉ざされることもあって、
冬は東京などへ季節労働に行く、いわゆる出稼ぎに行く者も少なくなかったようだ。
十三湊
「じゅうさんみなと」。古来正式には「とさみなと」と読む。
現在の十三湖周辺にあった中世以前の港町。
ストーブ列車
ローカル私鉄、津軽鉄道(五所川原-中里)に冬期間走る、
暖房用にダルマストーブを積んだ列車。
現在は、観光列車として運行されている。
いつも じょんがら 大きな声で お父う歌って 汽車から降りる
ここだけ見ると騒がしいオヤジだよな。
故郷に戻ってテンション上がってるんだろうけど、
いざ、そういう親父がいなくなった家は寂しかろう。
現在入手可能な収録CD/視聴可能
やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
※該当曲を聴ける保証はありません。