日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見で100曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『本能』 椎名林檎 ~ 人間の歴史の上に、言葉とともに欲望が生まれた

やけに耳障りな音だ。

不安になるような不協和音とは違う、人の息遣いを感じない電子音とも違う、

もっと実在的で、物の気配を感じ取れるような音。

まるで機械がけたたましく連続音を発生させる、町工場の界隈のような。

 

そう、喧噪という言葉がぴったりかもしれない、尖ったガチャガチャした音。

人の営みが作り出す、騒々しく耳障りな音の数々。

自分にとって、この曲は、そんなイメージがある。

 

 

うなり上げるベース、金属音のようなドラムス、空気を切り刻むようなストリングス*1

そして町内放送のスピーカーから流れるような、椎名林檎のくぐもったボーカル。

ゼンブ解っていて耳障りにしているようにしか思えない。

 

だけど面白いことに、椎名林檎のボーカル以外にひずんだ音はほとんどなく、

それぞれ輪郭のはっきりした乾いた音だ。非常にクリアでシャープな音。

それなのに、それなのにやけにノイジー

 

 

スタイルとしては、アンプやエフェクターを介さない音の時代、

20世紀前半の音に通じるものがある気がするが

マイクロフォンやスピーカー、録音機材が貧弱だった当時と異なり

楽器の素材自体が立てる音、金属や木材を引っ叩いたような音をリアルにとらえていて、

決して新しい音ではないのだろうが、妙に新鮮に聞こえる。

 

本能 シングルジャケット/amazonより
本能

本能

 
  • 作詞・作曲 椎名林檎、編曲 亀田誠治
  • 1999年10月27日、東芝EMIより発売
  • オリコン最高位2位(年間40位/1999年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:本能 椎名林檎 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:本能 (曲) - Wikipedia
  •  

     

    「れ」の発音が全部「Rrrrrrrrrrre!」になってしまっていて

    ドイツ語かよ!と突っ込みたくなるが、そんなことは置いておいて

    歌詞の方を眺めてみたいと思う。

     

     

     

    コムヅカシイ言葉を駆使しながら、もはや暗喩とは呼べないくらい、

    ほとんど直接的にエロティックな言葉を並び立てる。

     

    「♪もっと中まで入って 私の衝動を突き動かしてよ」

    なんて、ほとんどまんまな表現だけれど、実際のところは

    上っ面の言葉を並び立てるんじゃなくて、

    もっと心の奥から湧き出てくる思いをぶちかましてほしい、

    てな意味合いの方が大きいと思う。

     

    「♪どうして 歴史の上に言葉が生まれたのか

        『太陽』『酸素』『海』『風』 もう十分だった筈でしょう」

     

    身の回りにある、必要不可欠なものの概念*2以外の言葉を

    生み出した瞬間から、人間の欲望が生まれたという

    観点で書かれているんだじゃないかと思うんだよね。

     

    直接的に書かれている性欲をはじめ、

    破壊欲や所有欲、征服欲といったものが歌詞に見え隠れしている。

    動物的な欲求というよりは、知恵を得たために発生してしまった欲望。

     

    そういうのをひっくるめた『本能』なんだろうな。

     

     

     

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    「正しく舐め合う傷は 誰にも咎められない ひもいて 生命いのちなぞらう」

    後半を無理に意訳すると「都合よく解釈して、命の意味に結びつける」くらいの意味だろうか。

    全体としては、共依存関係の言い訳を、人間のさがに求めている、

    というような意味合いだろう。

    あらら、歌詞につられて難しく言いすぎだな。

    お互いマイナスにしかならないような、ダメダメな恋愛関係を正当化しようとして、

    これが人間だからしょうがないよね、と言い訳している状態のこと。

     

     

    「朝が来ない窓辺を求めている」

    「虚の真実を押し通して絶えてゆくのが良い」

    どちらも何とも退廃的な言葉で、つまるところは未来の否定なんだろう。

    朝が来ない窓辺とは、永遠に開けない夜のことだろうし、

    虚の真実とは虚構の世界や出まかせのことだろう。

    一般的な言葉で言いかえれば、「無理を通せば道理が引っ込む」。

     

     

    「全部どうでもいいと云っていたいような月の灯」

    この辺は少しロマンチストが入っている。

    月明りに見惚れ、嫌なこともすべてどうでもよくなるというが、

    一種の現実逃避とみることもできる。

     

     

     

     

    現在入手可能な収録CD/視聴可能
    勝訴ストリップ

    勝訴ストリップ

    やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
    ▼ 椎名林檎
    icon icon

    ※該当曲を聴ける保証はありません。

     

     

     

    脚注

    *1:生音じゃなくて、サンプリング音らしいけど、ホルスト組曲「惑星」の『金星』( by)を連想させるような音だ。

    *2:あるいは、いわゆる五大元素とか四大元素と呼ばれる、かつて世界のすべてを構成すると考えられていた物質。「大地」が見当たらないけど。