一発屋の巣窟として名高い、ヤマハの「ポプコン」出身である。
そんな出自から容易に想像がつくように、
表題曲の歌い手であるシュガー、および作詞・作曲の古田喜昭は、
いずれもご多分に漏れず、一発屋として記憶されている。
その特大の一発こそが、『ウェディング・ベル』であり、
美しいたたずまいのコーラスの中の「くたばっちまえ アーメン」という
強烈なフレーズによる爆発的な瞬間最高風速で、
一発屋どころか一瞬屋と呼んで良いような存在となった。
一発屋というのは、特大のヒット曲を出したものの、その後鳴かず飛ばずで終わった、
あるいは一発の印象が強烈過ぎて、ほかのヒットがまるで無かったことになってしまった、
そんな歌手やグループの俗称だ。
前出の「ポプコン」ことヤマハ ポピュラーソングコンテスト出身者でいうと、
『大都会』(1979年/ by
)のクリスタルキング、
『あなた』(1973年/ by
)の小坂明子、
『完全無欠のロックンローラー』(1981年/ by
)のアラジン、
『夢想花』(1978年/ by
)の円広志、
『わかって下さい』(1976年/ by
)の因幡晃、
『みずいろの雨』(1978年/ by
)の八神純子、
『愛はかげろう』(1980年/ by
)の雅夢、
『ボヘミアン』(1983年/ by
)の葛城ユキ、
『ふられ気分でRock'n Roll』(1984年/ by
)のTOM★CAT
などなど、そうそうたるヒット曲とメンツとが並ぶ。
ただ、一発屋というのはあくまで印象だけの問題なので、
これらの面々は、例に挙げた一発の他にもいい曲を出していたりするし、
そもそもポプコン自体、中島みゆきや谷山浩子、Chage&ASKA、長渕剛、世良公則といった
レジェンド的存在も多数輩出しているため、一発屋だけの巣窟では決してない。
だいいち、一発の花火も上がらず消えていったミュージシャンが
一体全体どれだけ数多くいたことだろう。
これら特大の一発をぶち上げられた人たちは、やはり果報者揃いなんだと思う。
だから敬意を込めた呼称として、あえて「一発屋」と崇め奉りたい。
そんな果報者の中でも、シュガーの方は真正の一発屋だろうと思う。
表題曲のほかで比較的知られているものとしては、
NHKみんなのうたで放映された、月を食べようと奮闘するカメレオンの物語
『カメレオン』くらいだろう。少なくとも自分はそれしか知らない。
これもなかなかの佳曲だが、シュガーのレコードとしてはリリースはされず、
わずかに「みんなのうた」の記念盤などに収録されるにとどまっている。
一方、作詞・作曲の古田のほうは、その後アニソンでそこそこの足跡を残しており、
本人の歌唱による『パーマンはそこにいる』や
太田貴子『デリケートに好きして』( by
)など、
唯一無二な作品を手掛けている。
アニメ クリーミーマミの主題歌である後者は、
作曲だけでなく、実にインパクトの強い歌詞も手掛けており*1、
文法的にひねくれた、その印象的なタイトルからは
気志團の『デリケートにキスして』(2002年/ by
)という、
文法的には合っているが、存在自体が間違っている
どうしようもないパロディまで生み出すほどのパンチ力を持っている。
さて、悪気はないつもりが、散々こき下ろした感じになってしまって
申し訳なさを感じつつ話を表題曲へ戻そう。
これまで何気なく聴き流していた曲を、あらためて聴きこんでみると
意外な発見があるというのはよくあることで、
表題曲についていえば、「♪オルガンの音が静かに流れて」というフレーズのバックに、
遠くかすかに、チャーチオルガン調の音色を持つ電子ピアノが聞こえるのは、
まあ、アレンジとして充分に納得のいく展開だろう。
ところが、その電子ピアノが、ほとんど聞こえないほど遠くで
ジャズピアノばりに奔放で騒がしい旋律を奏でているのには、
このオルガンのどこが静かだ!と思わずツッコミをくれてやりたくなる。
そんな感じに、格式や予定調和というものを、歌詞だけでなくアレンジでも
違和感でぶち破っているのが表題曲のキモともいえる部分で、
そう思って聴くと、いろいろと気になりドコロの違和感が見えてくる。
結婚式を彩る、美しい、アカペラのコーラスという
「それっぽさ」で無難にスタートしたと思いきや
軽快なリズムのアコースティックギターのイントロがはじまり
サビで陽気なカウベルが鳴り響くころに違和感の正体に気づく。
これはボサノバ*2ぢゃないか。
フルートやサックスといった、典型的なボサノバの楽器構成なのに、
今の今までそれと気づかず、
讃美歌、というよりは結婚式という神聖なものへの、
強烈なパロディであるという認識しか持っていなかったことに
まんまとしてやられた気分になる。
そんな風に、インパクトの強い歌詞の持つ強烈さの裏側に
こんなラテンの陽気なリズム、しかもおしゃれで洗練された演奏が
隠されていた(というよりは注目すらしていなかった)ことに、
驚くやら呆れるやらで、お楽しみどころ満載といったところだ。
折角なので、あらためてよく聴いてみてほしい。
この後まもなく訪れる、打ち込みによる自動演奏が主流になる直前の時代には、
こんな洗練された生の演奏が、さり気ないところにいっぱい転がっていたんだと。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
アーメン
キリスト教の誓いの言葉の締めくくりによく用いられるのを耳にするが、
元々はヘブライ語だそうで、あえて難しげな日本語に置き換えるならば
「かくあらんことを。」
今述べた誓いに、そうなることを強く望みます、と宣言しているわけだ。
そうなると、「♪くたばっちまえ アーメン」は
貴方が野垂れ死ぬことを 強く望み願ってやみません
となるわけだ。
キリスト教をおちょくっていると取られても仕方のない文面ではあるけれど、
悔しく恨めしい気持ちを、半ば冗談にして浄化させているのだと考えれば
そう目くじら立てるものではないのではと思う。
神父さん
「神父さん」ということは、この教会はカトリックなんだな。
ちなみに「牧師さん」だったらプロテスタントが正解になるんでしょ?
そういう風に役に立たない知識をひけらかして合点するのは、
実は根本的に判断が間違っているといえる。
ミステリーものや、物語の深読みにおいて陥りやすいことであるが、
普通の人は物事を正確にとらえていないし、
むしろ曖昧なまま覚えていたりすることの方がずっと多いからだ。
だから、キリスト教を茶化すような不敬者の主人公の言う「神父さん」が
牧師さんではなく本当に神父さんなのかどうかなんて、
ここでは判断なんてできないのだ。
ウェディングベル
結婚式で鳴らす教会の鐘のこと。
その意味合いや作法には諸説あって
どれが正しい、とかいうのはないものと思う。
魔除けに鳴らすとか、結婚の誓いを世に知らしめるために鳴らすとか、
過去・現在・未来への感謝を込めて鳴らすとか、
まあいろいろ言われているけど、
実際のところは景気づけだろうね。あれは。(身も蓋もない)