日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『Yes-No』 オフコース ~ 心の中だけの問いかけだとしたら、答えは返らない。

遠くかすかにこだまする、草笛のような音色*1
風に乗ってほのかに聞こえてくるかのようだ。

あまりに静かな、そんな印象の立ち上がりに、
「無音」と判断した車載のFMトランスミッター*2
容赦なく省エネモードを発動、音の出力をOFFにしてしまう。

ケッ。所詮機械には、この繊細さがわかるまい。
と心の中で毒づき、時には、アホか!と声に出して
身振りを添えて一人ツッコんでみるものの、相手は機械。
結果は変わらず、一定の基準によってのみ動作する。

無念。

ASIN:B07B6J9SBH シングルジャケット/amazonより
  • 作詞・作曲 小田和正、編曲 オフコース
  • 1980年(昭和55年)6月21日、東芝EMIより発売
  • オリコン最高位8位(年間35位/1980年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:YES・NO オフコース 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:


  • 主人公は、恋人未満の相手に対し、
    ずっと問いかけを発し続ける。

    「♪好きな人はいるの?」
    「♪君を抱いていいの?」
    「♪好きになっていいの?」
    「♪心はいまどこにあるの?」

    しかし、相手の答えが得られている様子はない。

    主人公は、思ったことをそのままに、
    思ってもいないことも口から先に出てくるような
    お調子者の軟派ヤローで
    ふざけているようにしか捉えてもらえないのだろうか。


    いや、もしかしたら、主人公の問いかけも、
    答えが得られないことがわかっていながらの、
    声にならない心の問いかけなのかもしれない。


    「♪ほかのこと考えて 君のことぼんやり見てた」
    相手のことが気になってしょうがないのだから、
    今晩の献立とか、そういうまったく関係ないことを
    考えていたとは考えにくい。

    「君を抱いていいの?好きになってもいいの?」
    そんな答えのない問いかけを
    頭の中でずっとしていたのではないだろうか 。.

    君を好きになっていいの?
    そんな言葉を言いたくて、言い出せない。
    君を悲しませたくないから。
    傷ついた、もしくは傷つきやすい相手なのだろうか。

    「♪時は音もたてずに 二人包んで流れていく」


    お調子者の歌ではない。
    そうじゃなきゃ、この寂しげな雰囲気に
    折り合いがつかないじゃないか。



    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    静かな導入部から一転して、
    都会的でクリアなドラムをバックに
    印象的なシンセサイザーのイントロがスタートする。


    なんでこう、単音引きのシンセサイザーの音って
    こんなに切ない響きなんだろう。
    なんの変哲もない機械的な音なのに、
    胸がきゅんと締め付けられるような音だ*3

    それとも、なんの変哲がない音だからこそ、だろうか。
    オカリナやパンフルートの音のような
    矩形派とか正弦波に近い音は、
    心細い単音で奏でられることで、哀愁を掻き立てる。
    喜太郎にしても、宗次郎にしても、冨田勲にしても。
    みんなそう。

    そんな音が大好きな人間がここにいる。
    思えば、生まれて初めて買ったCDは、
    宗次郎の『大黄河』(1986年/ by)だった。
    親に歌謡曲の類でなければ買ってやると言われて、チョイスしたのがこれ。我ながら渋すぎる。


    もうひとつ蛇足。
    「♪あぁ 時は音もたてずに 二人包んで流れていく」
    この部分、それまで8ビートを刻んでいたドラムが、
    ここだけ16ビートを刻む。
    イントロを除けば一番静かな部分だけど、
    こういうアレンジのセンスがすごいと思う今日この頃。


    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

     全文日本語訳、というより物語風に妄想タイムに行ってみよう。
    主人公はお調子者、ではなく、
    互いに傷つくことを恐れ、気持ちを伝えられない、
    そんな前提の主人公で。


    「ごめん、いまなんて言ったの?」
    おもわず、話を聞き流してしまっていたようだ。
    また自分だけの世界にいたよ、と
    からかうように笑って彼女は答えてくれた。
    「ちょっと寒くなってきたね、って言ったのよ。」

    いわれてみれば、空気がひんやりとしてきたことに気付く。
    暑かった夏も、もう終わりのようだ。

    何を考えていたかって、それは君のこと。
    頭の中はただただ彼女への問いかけばかりがあふれていた。それは答えのない問い。
    ・・・だれか好きな人はいるの?
    ・・・君を好きになってもいいの?
    ・・・君を抱きしめてもいいの?
    ・・・君の心には誰がいるの?

    彼女のにおいが感じられるほど、近くにいるのに、頭の中ばかりがおしゃべりで、
    本当の言葉にすることができなくて。
    それでもやっぱり君のことばかり考えてしまうんだ。
    この気持ち、彼女は気づいているんだろうか。
    それとも気づいているけど、気づかないふりをしているだけなんだろうか。

    もしそうならば、そのまま気づかないふりしてくれたって構わない。
    僕は答える。
     「ああ、そうだね。少し寒くなってきたね。
    今日は付き合ってくれてどうもありがとう。じゃ、また明日。」

    想いを伝えることは、彼女を困らせるだけかもしれない。
    傷ついた彼女に、同情しているだけと思われるかもしれない。
    もう彼女の悲しい顔を見たくないんだ。悲しませたくないんだ。

    僕じゃ駄目かな?
    僕が、君を抱きしめてもいいかな?
    僕が、君を好きになってもいいかな?

    答えのない問いかけが、いつまでもあふれる。



    こういうの妄想をあふれさせる症状を、
    人は中二病と呼ぶらしい。
    どうやら、だいぶこじらせているようだ。


    現在入手可能な収録CD/視聴可能
    We are(紙ジャケット仕様)

    We are(紙ジャケット仕様)

    やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット

    ※該当曲を聴ける保証はありません。




    脚注

    *1:実際はフリューゲルホルンの音色らしい

    *2:イヤホンジャックからの音を、FM電波にして飛ばす機械。車載オーディオに対応していないメディアでも、FMラジオさえついていれば聴くことができる機械。
    手持ちのものは十数年前に買ったものだが、最近車を乗り換えてから引っ張り出して使用している。だって、普通のCDしか聴けなくて、入力端子もないんだもの。埋め込み式のオーディオは融通が利かなくていけない。

    *3:オヤジだって胸ぐらいきゅんとするのだ