遠くかすかにこだまする、草笛のような音色*1。
風に乗ってほのかに聞こえてくるかのようだ。
あまりに静かな、そんな印象の立ち上がりに、「無音」と判断した車載のFMトランスミッター*2は、容赦なく省エネモードを発動、音の出力をOFFにしてしまう。
ケッ。所詮機械には、この繊細さがわかるまい。
心の中で毒づき、時には、アホか!と声に出して身振りを添えて一人ツッコんでみるものの、相手は機械。
結果は変わらず、一定の基準によってのみ動作する。
無念。
主人公は、恋人未満の相手に対し、ずっと問いかけを発し続ける。
「♪好きな人はいるの?」
「♪君を抱いていいの?」
「♪好きになっていいの?」
「♪心はいまどこにあるの?」
こんなに多くの問いかけに対し、相手の返事が得られている様子はまったくない。
主人公は、思ったことをそのままに、思ってもいないことも口から先に出てくるようなお調子者の軟派ヤローで、いつものようにふざけているようにしか捉えてもらえないのだろうか。
「♪ほかのこと考えて 君のことぼんやり見てた」
相手のことが気になってしょうがないのだから、まったく関係ないことを考えていたとは考えにくい。
「♪君を抱いていいの?好きになってもいいの?」
これらの問いかけは、声にならない、主人公の心の中だけで発せられている問いかけなのかもしれない。
君を好きになっていいの?
そんな言葉を言いたくて、言い出せない。
君を悲しませたくないから。
傷ついた、もしくは傷つきやすい相手なのだろうか。
「♪時は音もたてずに 二人包んで流れていく」
お調子者の歌なはずはない。
そうじゃなきゃ、この寂しげな雰囲気に折り合いがつかないじゃないか。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
静かな導入部から一転して、都会的でクリアなドラムをバックに印象的なシンセサイザーのイントロがスタートする。
なんでこう、単音弾きのシンセサイザーの音って、こんなに切ない響きなんだろう。
なんの変哲もない機械的な音なのに、胸がきゅんと締め付けられる*3ような音だ。
それとも、なんの変哲がない音だからこそ、なのだろうか。
オカリナやパンフルートの音のような矩形派とか正弦波に近いシンプルな音は、心細い単音で奏でられることで、哀愁を掻き立てる。
喜太郎にしても、宗次郎にしても、冨田勲にしても。
みんなそう。
そんな心を掻きむしるような音が大好きな人間がここにいる。
思えば、生まれて初めて買ったCDは、宗次郎の『大黄河』(1986年/)だった。
親に歌モノの類でなければ買ってやると言われて、チョイスしたのがこれ。我ながら渋すぎる。
もうひとつ蛇足。
「♪あぁ 時は音もたてずに 二人包んで流れていく」
この部分、それまで8ビートを刻んでいたドラムが、ここだけ16ビートを刻む。
イントロを除けば一番静かな部分だけど、こういうアレンジのセンスがすごいと思う今日この頃。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
全文日本語訳、というより物語風に妄想タイムに行ってみよう。
主人公はお調子者、ではなく、互いに傷つくことを恐れ、気持ちを伝えられない、
そんな前提の主人公で。
おもわず、彼女の話を聞き流してしまっていたようだ。
また自分だけの世界にいってたよ
と、からかうように笑って彼女は答えてくれた。
「ちょっと寒くなってきたね、って言ったのよ。」
いわれてみれば、空気がひんやりとしてきたことに気付く。
暑かった夏も、もう終わりのようだ。
何を考えていたかって、それは君のこと。
頭の中はただただ彼女への問いかけばかりがあふれていた。それは答えのない問い。
・・・だれか好きな人はいるの?
・・・君を好きになってもいいの?
・・・君を抱きしめてもいいの?
・・・君の心には誰がいるの?
彼女のにおいが感じられるほど、近くにいるのに、頭の中ばかりがおしゃべりで、
本当の言葉にすることができなくて。
それでもやっぱり君のことばかり考えてしまうんだ。
この気持ち、彼女は気づいているんだろうか。
それとも気づいているけど、気づかないふりをしているだけなんだろうか。
もしそうならば、そのまま気づかないふりしてくれたって構わない。
僕は答える。
「ああ、そうだね。少し寒くなってきたね。今日は付き合ってくれてどうもありがとう。じゃ、また明日。」
想いを伝えることは、彼女を困らせるだけかもしれない。
傷ついた彼女に、同情しているだけと思われるかもしれない。
もう彼女の悲しい顔を見たくないんだ。悲しませたくないんだ。
僕じゃ駄目かな?
僕が、君を抱きしめてもいいかな?
僕が、君を好きになってもいいかな?
答えのない問いかけが、いつまでもあふれる。
こういう妄想をあふれさせる症状を、人は中二病と呼ぶらしい。
どうやら、だいぶこじらせてきているようだ。
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