むせっかえるくらい、汗臭い。
そしてそれ以上に、男臭い。
そんなイメージのアリスの数々の曲の中でも
とびっきりの汗臭さと男臭さをあわせ持つ曲。
「チャンピオン」
翳があって、暗くて、
それでいてどこかカッコよくて、
なんだかすっかり、あしたのジョーの世界。
アコースティックギターとドラムをメインにしたロックナンバー。
前奏で聴けるのはチェンバロだろうか。
フォークロックの旗手にふさわしい構成の曲。
詞の世界と楽曲が見事にマッチしたこの曲は、
勢いにかげりの見えたボクシングのチャンピオンの姿を
傍で支えるセコンドの視点で描く。
情景を丁寧に描写した曲なので、その必要もないような気もするが
せっかくなので久しぶりに全文日本語訳行ってみよう。
制止しようとした手を振り払って
彼は早々にロッカールームを後にしてしまう。
白いガウンをまとったその背中は
どこか哀愁すら感じさせた。
リングに向かう花道で、急に振り返り
心配するな、俺は至って冷静だよとばかりに
こぶしを振り上げて笑顔を見せるが、
いつものような覇気が感じられない。
観客の拍手の渦に吸い込まれるように
スポットライトを浴びたリングに降り立つチャンピオン。
お前は真の王者だ。お前の居場所はまさにここなんだ。
いつもの自分を思い出せ。生命をみなぎらせるんだ。
場面変わって、劣勢に立つチャンピオン。
血飛沫の散るマットから懸命に立ち上がるが
腫れあがったまぶたの奥に光る目には
闘志ではなく、涙が浮かんでいるように見えた。
一方若き挑戦者は、容赦なく
兎をしとめる獅子のように襲い掛かる。
そしてチャンピオンは、
スローモーションのようにマットに崩れ落ちた。
力尽き、やすらかに眠るように。
消えゆく意識の中で、彼は何を思っただろう。
どんな姿になっても、お前は真の王者だ。
もう立たなくていい。もう充分お前は戦った。
神よ、彼をもう赦してやってくれ。
また場面変わって、再びロッカールーム。
敗れた王者が、戦いで切れた唇を動かして
うつろに何事かつぶやいている。
これで、これでやっと只の男に戻れる。
そう、ひとりの人間、普通の生活に戻れるんだ。
王者であり続けることから解放されたチャンピオン。
体力よりも、気力が限界に来ていたのだろう。
こんな感じで、思いっきり男性向けのバンドだと思うが
女性ファンもそれなりにいるようで少し不思議。
バンド名だけは女性っぽいけど。
そういえば子供のころ、適当に見つけたカセットテープに
重ね録りをしたことで、母親に怒られたことを思い出した。
当時、多くの人がそうであったように、
テレビの前にラジカセを置いて録音していたので*1
「ぎゃー!なにしてんの!」という悲鳴に近い怒号までしっかり録音された。
そのテープのラベルに書かれていたのが「アリス集」。
たぶんこのアリス。
うちの母親だって聴いていたわけだ。
しっかり重ね録りしてしまったから*2
カセットにもともと何の曲が入っていたかは不明。
それにしても男臭いよね。
『冬の稲妻』(1977年/ by)でも聴ける
「Ahhh・・・」というため息が、
ラーメンのスープを最後の一滴まで飲みほした
おっちゃんの満足げなため息に聞こえてしょうがない。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
どこで読んだのか忘れたが、
アリスというグループは、
堀内孝雄がコツコツといい歌を積み上げていく脇で
谷村新司が一発逆転の歌を持ち込んで手柄を全部もっていってしまう、
そんなグループだと。
まさにその通り。
あくまで個人的な印象において、と
前置き*3をしたうえで言うと、
ソングライティング能力は、堀内の方がやや上だろう。
歌唱にしたって、これも堀内の方がいくらか上だと思う。*4
声質は、これは明らかに堀内の方が上。好みもあるだろうけど。
しかし、言葉を伝える、という一点においては
谷村の方がはるかに上なのだと思う。
これは自らが作詞をする谷村と、
しない堀内の差に起因するのかも知れない。*5
言葉を紡げるというのは強いよね。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
「年老いた」
年老いたといっても、ボクサーの選手生命における
年であって、世間一般に見ればまだまだ若い。
おそらくまだ30代だろう。
「ライラライ」
Lie La Lieと綴るといわれるが、真偽は不明
Lieは「嘘をつく」という意味と、「横たわる」という両方の意味がある。
サイモン&ガーファンクルの『ボクサー』(1969年/ by)で使われた
スキャットだが、間違いなくそれになぞらえたもの。
『ボクサー』の方がずっと爽やかだけどね。
現在入手可能な収録CD/視聴可能
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※該当曲を聴ける保証はありません。