すべて女が悪いと思う。
新社会人として、意気揚々と都会へ旅立っていった男と、
故郷にひとり残された恋人の、文通形式*1のこの表題曲を聴くたびにそう思う。
しかし一般世間の反応を見ると、どうもその解釈は違うらしい。
都会にもまれて、変わっていく男、
やがて男は故郷を捨て、恋人にも別れを告げる曲だと。
女は、最後にひとつ小さな願い事を告げて、別れを受け容れる。
「♪涙ふく 木綿の ハンカチーフください」
いじらしいじゃないの。
いや待て、と言いたい。
別れる原因は女にあるだろうと。
順に歌詞を見ていこう。
男「♪恋人よ 僕は旅立つ … 華やいだ街で 君への贈り物探すつもりさ」
女「♪いいえ、あなた … 都会の絵の具に 染まらないで帰って」
男「♪恋人よ … 都会ではやりの指輪を贈るよ 君に似合うはずさ」
女「♪いいえ、星のダイヤも 海に眠る真珠も …」
男「♪恋人よ … 見間違うような スーツ着た僕の写真を見てくれ」
女「♪いいえ、草に寝転ぶ あなたが好きだったの …」
常に「いいえ」で返すんじゃねーよ、このヤロー*2
男は、街に働きに出て、夢を追いかける姿を応援してほしいんじゃないのか?
それなのに、得意になっている手紙の返事が、
前のほうが良かった、では、本当にいたたまれないではないか。
この反応が嫌になったのだろう。
すべて自分が悪い、ということにして、男は別れを切り出す。
それに対して、女は憐れみを誘うように、
今まで何も欲しいとは言わなかったけれど、
最後に、涙をぬぐうハンカチを買ってほしい、とカウンターパンチを繰り出す。
自分がそもそもの原因なのに、男を悪者にして、関係を締めくくる、
おそらくこいつは天然悪女。
無自覚に、自分を絶対優位に持っていく性悪な女*3。
こいつがすべて悪いと思うのだ。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
透き通るような太田裕美の歌唱がポイント。
この声は意外に好き嫌いがはっきり分かれて、
このコケティッシュな声がたまらない、という御仁*4と
クセがなくてつまらない、という御仁の二手に分かれる。*5
男パートと女パートの歌いわけを、
ダブルトラック*6の有無で行っているはずなのに、
あまりにも声が透き通りすぎていて、
ダブルトラックの部分とそうでない部分の差をあまり聴き分けられず、
いま一つ狙った効果が出ていないと思われる。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
都会の絵の具に染まらない
説明するまでもないかもしれないが、都会に感化される、の意味。
地方出身者が東京に出て東京弁を粋がってしゃべることなどに現れる。
このあとは、「♪ツマラナイで帰って、ツマラナイで帰って」と
ドすべりした芸人にとどめを刺すフレーズで締めくくられる。(違う)
木綿のハンカチーフ
木綿は今風の言葉でいうとコットン。
ハンカチーフはハンカチ。
あえて、高級なイメージのあるシルクではなく、
庶民的なイメージの木綿のハンカチを選ぶところにも、
ちょっと作為的なものを感じてしまう。
現在入手可能な音源
やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
※該当曲を聴ける保証はありません。