この曲の作者である、ユーミンこと松任谷由実が
のちに「荒井由実」名義でセルフカバーしたときには
ストーカー気質の怖い女扱いされた、この曲の主人公だが、
まぁ、確かに文字通り捉えるならばかなり怖い女だ。
「あなた」と「あの娘」の恋人同士のテーブルに、
ずかずかとわり込んで「♪テーブルを挟んであなたを熱く見た」り
「あの娘」が振られたという噂を耳にしてからは、
あろうことか「♪別の人がくれたラブレター見せたり」と、
人の迷惑も顧みず、やりたい放題だ。
歌詞に出てこない「まちぶせ」というタイトルも、
男を待ち伏せするハンターのさまを連想させる。
何より怖いのが、「♪好きだったのよ あなた」と過去形であることだ。
好きだったのが過去形なのに、男を振り向かせようとする。
振り向かせた挙句、こっぴどく振る気なのだろうか。
これは逆恨みからくる復讐劇なのかと勘ぐってしまう。
そんなふうに、90年代に松任谷由実が歌ったときには、
ちょうど「ストーカー」という言葉が一般化してきた時流もあって
まさしくストーカーの歌だ、という受けとられ方をしていたけど、
石川ひとみが歌った80年代*1においては、ちょっとヤな感じもする奴だけど、
せいいっぱい背伸びして、小悪魔を気取って強がっている女の子の歌、
というような受けとられ方をしていたと思う。
歌い手のイメージや、年齢によるところも大きいのは事実だが、
なにより、ストーカーという概念が存在しなかった時代と、
世間にストーカーの何たるかが浸透しきっている時代とで、
歌詞から連想されるイメージがまるでちがう、というのが実際のところだろう。
当時は、おっかない女だなぁ、という印象を受けても
決して恐怖の対象ではなかったのは間違いない。
けど、今だったら、こういう人がいたらちょっとした恐怖だもんね。
だけど、決して陰湿な感じを受けないのがこの曲のキモ。
カラッとした雰囲気を演出しているのは、
跳ねるように小刻みなフレーズをもつメロディーだろう。
音を伸ばしている部分も、
「♪好きだ~ったのよ あ~なた~」と歌っているハズなのに、
延ばしている音が分離しているように聞こえるため
「♪好きだあったのよ ああなたあ」と歌っているように聞こえるし、
むしろ意識的にそう歌っている可能性もある。
おそらくこのメロディーを譜面におこしてみると、
4分音符ひとつの音は、同じ音階の8分音符ふたつ、
もしくは8分音符と8分休符ひとつずつで表現されるのではないかと思う。
「♪ゆ~ぐれの まちか~ど」ではなく、「♪ゆうぐれのっ まちかぁど」って具合にね。
さらに意識してか無意識か、おなじ発音(もしくは同じ母音)の音が
連続して出現するのが頻繁にみてとれるのも気になるところだ。
ゆうぐれの街角 のぞいた喫茶店 ほほ笑み見ぃつめあう・・・
「ほほえみみ~」の部分なんて、ひらがなで表記すると、なんだか異様だもんね。
まるで「かたたたき」みたいじゃないか。
普通は発音が重なると歌いにくくなるから避けるところを、
歌いにくくなるからこそ、一音一音丁寧に歌うように仕向けられているのかもしれない。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
言い寄る
異性からのアプローチを指す言葉だが、あまりいい意味で使われない言葉だと思う。
言い寄る、とか、詰め寄る という言葉には、
ニュアンス的に、ぐいぐいと差し迫るような強引さが感じられる。
普通ならここは、声をかける、とか、思いを告げる という言葉の方がふさわしいはずだ。
自分の行動に、言い寄る、なんて表現を使うあたり
だからオマエは恐い女だって言われるんだよ、っと突っ込みたくなる。
もうすぐ私きっと あなたを振り向かせる
これが自分を励ますための言葉ならいいんだけど、
この「もうすぐ」と「きっと」の組み合わせときたら、
ホントにそう思い込んでいるとすると、すごく怖いよな。
ああ、いけない! 怖い怖いって書きすぎた!
この曲、怖くないよ!
むしろとってもキュートなんだから!
現在入手可能な収録CD/視聴可能
やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
※該当曲を聴ける保証はありません。
脚注
*1:もっというと、この曲のオリジナルの歌手である三木聖子が歌っていた70年代も