つくづく不思議な歌い手で、
そもそも上手いのか下手なのかがよくわからない。
・・・イヤ、もちろん上手ですよ?
だけどなんて言うか、情緒の襞というか、
そういうのをあまり感じさせない歌い方をしてくる*1。
平坦に歌うか、平坦に叫ぶ*2かどっちかという感じで、
この『大きな玉ねぎの下で』のような感傷的なバラードも
彼にかかれば、まるで他人ごとだ。
だけど、だけどそのブッキラボー加減が、
淡い恋心を砕かれた高校生*3の青い歌に非常にマッチしている。
「♪君がいないから 僕だけ寂しくて」
ひしひしとしたやりきれない感と、
強がっている感を、このボーカルから感じるのは自分だけ?
面識のないペンフレンドとの恋、というテーマもまた
ありそうでなかった題材でナイス。
手紙だけでのやり取りというのは、
いまのネット時代の匿名のやり取りにもある面では似た感じもする。
決定的な違いもあって、基本的に1対1であること、
そしてなにより手紙でやり取りできるというのは
実在の証拠であるという点が大きく違う。
もちろん、年齢や性別を偽ったり、
「定期入れの中のフォトグラフ」は別人のもの、
あるいはずいぶん若い時のもの、という芸当は可能。
たとえば自分の息子や娘のふりをした
おっちゃんおばちゃんが正体だったりする可能性もあるわけだ*4。
しかし、まったく架空の人物や無関係の別人を騙ることや、
どこに住んでいるか、どんな筆跡かとかは隠し立てできない。
結構、文体や筆跡には性格出るしね。
だけど、そんな大きな嘘でなくても、
ちょっとした見栄や、自分を飾り立てた言葉のために、
相手に直に会って素がばれる、というのは避けたいところだろう。
実際に対面を果たしたペンフレンドというのは、多くないのではないだろうか。
文通したことないので、想像でしかないけれど、
相手の期待を裏切ってしまう、もしくは純粋に恥ずかしい、
逆に相手の本当の素性が判らずに怖い、という思いが先に立ち、
しり込みするのは目に見えている。
その点この主人公は、まあ素直というか純粋というか、
おそらく飾り立てることも少なく、正直な文通をしてきたのだろう。
ちょっぴりの勇気と期待を胸に、
おそらく相手の好きなミュージシャンのコンサートなのだろう、チケットを贈って、
実際に会う約束を取り付けてしまう*5
相手は、最後の最後でそこまでの勇気が持てなかったのか、
結局、現れることはなかった。
淡い淡い恋心が、ほろ苦い思い出に変わった瞬間。
青春だねぇ。しみじみ。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
正直に言う。かねてより自分が聴き親しんでいたものが
1989年のシングル『大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い』( by)
だと思っていた。
それがこの稿を書くにあたって、85年のバージョンだということが発覚した。
それどころか、バージョン違いがあることを知らなかった。
リアルタイムで聴いていた人や、アルバムを集めている人であれば
自明のことなのだろうが、
自分のように、もともと洋楽ばっかり聴いていたのが、
あるとき思い立って、日本の曲を新旧問わず手あたり次第
一斉に収集したような、"後追い"の聴き手にとっては
どれが本当なのかの判断をするのが非常に困難になる。
編集の違いならまだしも、シングルとアルバムでアレンジからそもそも違ったり、
ベスト盤やオムニバスをリリースするのに、ご丁寧にも録り直していたり、
レアな別バージョンを収録したりするのが結構あるからだ。*6
雛鳥の刷り込みのように、最初に慣れ親しんだものこそが
当の本人には真実になってしまうので、
百名曲に選んだのは、ヒットしたシングルバージョンではなく、
85年のバージョン、ということでひとつよろしく。
89年のは、自分にとっては
まるでレコードで回転数を間違えたかのように聞こえてしまうのだ。*7
また、後日作られたという続編*8も
同じ理由でここでは触れないことにする。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
「大きな玉ねぎ」
日本武道館の屋根の一番てっぺんにある飾り、宝珠(擬宝珠)のこと。
牛若丸と弁慶が戦った五条大橋の欄干や、
ちなみに、「武道館」や「コンサート」を直接指す言葉が全く出てこないのが、この歌のキモ。
九段下、千鳥ヶ淵、屋根の上の・・・玉ねぎ、
ときて、ああ日本武道館ね、と知っている人にだけ分かる仕組みになっている。
主人公が贈ったチケットが、柔道やボクシングのものではなく、コンサートのチケットだと
判明するのが「アンコールの拍手」のくだり・・なのだが
いや、ひょっとするとプロレスかもしれないと今思い始めた。
やんないよね?アンコール。。プロレスで。。。
ノリでやりそうなのが怖い。
「九段下の駅を降りて坂道を 人の流れ追い越して行けば」
「九段下の駅へ向かう人の波 僕は一人涙をうかべて」
行きは、期待に胸を躍らせ足早に、
帰りは、打ちひしがれて立ち尽くす。
行きはよいよい帰りは恐い。怖いながら通りゃんせ通りゃんせ。
青春の通りゃんせなんだな。これは。
現在入手可能な収録CD/視聴可能
やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
※該当曲を聴ける保証はありません。
脚注
*1:似たような例に、エレファントカシマシの宮本浩次などがいる
*2:これって実はすごいテクニックだ!
*3:年齢を表す記述は見当たらないが、定期持ってるからおそらく中学生ではなく、スレていない感じからたぶん大学生でもない。
*4:今これを書いている自分だって、どこぞのおっちゃんではなく、うら若き乙女であるという可能性も排除できないはずだ。いや、そんな可能性いらないけど。
*5:「♪君の返事読み返して」とあるのでOKをもらったことは確か。
*6:本人はより良いものを、のつもりだろうが、聴く方にとっては裏切られた感を受けたりするので、正直やめてほしい
*7:レコードはEPとLPで回転数(再生速度)が違うため、間違えると音が妙に高くなるか、逆に妙に低くなってしまう