日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『硝子の少年』 Kinki Kids ~ 現役の少年に少年時代を振り返らせるナンセンス

歌い出しに現れる無音の瞬間にゾクっとくる。
曲の随所にみられる、そういう"古臭い"テイストが、この曲のキモだったりする。

古臭いといっても、世代を超えた大昔ではなく、
ひとりの人間が、ふと余裕をもって振り返ることができる程度の過去。
どこかで見聞きしたことがある、という知識としての過去ではなく、
実体験として、身をもって覚えている、過去だ。


雰囲気からして、おおよそ10年くらいさかのぼった、
つまりは表題曲のリリース年である1997年からみた10年前、
1980年代中盤のテイストではないかと思う。

曲に細かな装飾を施す、クラシックギターの音色、
頑なにハモろうとしない、Kinki Kidsの二人のユニゾン*1
締めに余韻を残すストリングスの音など
作り手も聴き手もお互いに、そうそう、こういう感じだったよね、と
思わずニンマリとしてしまう細かい仕掛けが満載。


その中において唯一、シャカシャカと鳴っているドラムだけが、
少し現代的なアレンジを演出しているのかと思いきや、
よくよく聴くと、その音が何ともチープで、
ファイコンのノイズ音*2かよ!とも突っ込みたくなるほど。
80年代の打ち込み音*3の草創期の雰囲気が、こんなところにもよく出ている。
このあたり、さすが妥協を許さない音職人、山下達郎の作・アレンジといったところか。



シングルジャケット/駿河屋より
これはカラオケバージョン。
ジャニーズ絡みは試聴ひとつにも実にシビアな現実がある
  • 作詞 松本隆、作曲・編曲 山下達郎
  • 1997年(平成9年)7月21日、ジャニーズエンターテインメントより発売
  • オリコン最高位3週連続1位(年間2位/1997年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:硝子の少年 KinKi Kids 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:硝子の少年 - Wikipedia


  • 一方、松本隆のペンによる歌詞の内容にしたって、
    過去を振り返る内容で、ちょっとした懐かしさを演出している。

    「♪嘘をつくとき瞬きをする癖が 遠く離れてく愛を教えてた」
    このあたりの歌詞なんかも、
    『抱きしめてTonight』(田原俊彦/1988年/ by)の
    「♪悩み事を隠すの案外下手だね 肘をついた姿勢で爪を噛んでる」あたりと
    かなりリンクするように感じるのは、おそらく曲調のせいだけではないと思う。

    ものは試しに、表題曲のサビ
    「♪歩道の空き缶蹴っ飛ばし バスの窓の君に 背を向ける」の続きに
    『抱きしめてTonight』のラスト部分、
    「♪Tell Me 心なら Tell Me 動いてる 悲しみは続かない」
    と歌っても曲調的にも歌詞的にも全く違和感がないではないか。

    こういうところに確信犯的なものを感じてしょうがない。



    街で見かけたかつての恋人、
    その左手の薬指には婚約指輪(もしくは結婚指輪)が光っていた。
    主人公の胸には、かつてのほろ苦い思い出がよぎり、その場から逃げるように立ち去る。
    しかし心はまだ未練たっぷり。という内容。

    しかし、現役の少年たち(二人とも1979年生まれというから、当時18歳かな?)に、
    少年時代の苦い思い出話を歌わせるなんて。
    等身大の自分を歌うことがもてはやされはじめた時代に、
    何とも大胆な試みだったと思う。

    未成年に背伸びした歌を歌わせるのは、昔からの常套手段だが、
    背伸びを通り越して、数年後の視点から過去を振り返らせて、
    現在の自分たちを投影させてしまうあたり、
    相当ひねくれた歌なのかもしれない。


    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    それにしても、堂本光一と、堂本剛。この二人の歌い方は驚くほどに似ている。
    声の表情のつけかたから、発声の仕方、はては声質に至るまで。

    歌い方には、作者である山下達郎っぽさは全くないので、
    だれかほかに歌唱指導の人がいたのかもしれない。
    器用にも二人はそれを忠実に再現してしまったのだろうか。

    そのために、複数人が歌うことによる音の揺らぎ*4がほとんど感じられないくらい、
    二人の歌唱が溶け込んでいる。

    どういうトリックを使ったんだろう。
    ただ単に偶然が生み出したものかもしれないけど。
    ただそのせいで、デュエットで歌っているという必然性が
    音の上ではほとんどなくなってしまったのがちと残念。


    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    雨が躍るバスストップ
    確信的にブッコんだ文学的表現。
    雨が躍る、なんて表現も、バスストップ、なんて言い方も
    けっして日常会話で出て来るものではない。
    雨のバス停、じゃ絵にならないが、
    雨が躍るバスストップ、とくれば途端に絵になるから不思議だ。


    僕の心はひび割れたビー玉さ のぞきこめば君が逆さまに映る
    実際にやってみるとわかるけど、ビー玉から覗いた景色は、逆さまに映る。
    それはそうと、よく考えてほしい。
    ひび割れてしまうとそこに不連続面ができるので
    そこで光は拡散、もしくは反射してしまって、おそらく向こう側は見えないと思われる。

    理科の現実的な問題なのではなくて、
    これも文学的表現のひとつなんだなぁ。

    ビー玉(ガラス玉)→もろひび割れやすい
    ビー玉→景色が逆さまに映る

    僕の心には、君の心は正反対に映り、そして僕の心はもろく崩れやすい。


    硝子の少年時代の破片が胸へと突き刺さる
    少年時代の破片。
    すでに崩れ去ってカケラになっているけれど、まだチクチク胸を刺す。


    よそゆきの街
    文学的表現が続く。
    普段の街、の反対としてのよそゆき。
    見栄を張って、ちょっと背伸びした街にデートに行ったんだろうね。



    現在入手可能な音源

    【オリジナルアルバム】
    B album

    B album

    • アーティスト:KinKi Kids
    • 発売日: 1998/08/12
    • メディア: CD

    【ベストアルバム】




    脚注

    *1:【ユニゾン】複数人のコーラスが、和音ではなく、同じ音程のメロディーを奏でること。

    *2:【ファイコンのノイズ音】任天堂の名機・ファミリーコンピュータの音源は、矩形波が2音、正弦波が1音、ノイズ音が1音の合計4音。ノイズ音は、「シャー」というアナログテレビの砂嵐画面の音のような音で、音程はない。
    なお、正確にはもう1音PCM系統の音源があるらしいが、これは周波数が安定せず音楽向きではない。
    こんなチープな音源で、当時よくあれだけの音楽を奏でていたと思うと頭が下がる。

    *3:【打ち込み音】プログラミングによる自動演奏のシンセサイザー音のこと。

    *4:【複数人が歌うことによる音の揺らぎ】コーラス効果。複数の人が同時に歌ったり、同じ人が2重、3重に重ね録りするなどする。わずかに音程やタイミングが異なることによって、音に厚みを持たせることができる。