ときはまだまだ、バブル景気を強く引きずっているころ。
日本中すべてが浮かれまくって
「♪24時間戦えますか?」なんて歌が流行った時代だが、
(『勇気のしるし』(牛若丸三郎太*1/1989年/ by))
どういうわけかこの時代は、ノスタルジックな曲が特に目立つ。
浮かれすぎた反動なのか、あるいは、余裕があると人は過去を振り返りたがるのか。
「♪遥かなる空の果て 想い出が駆け巡る
なだらかな このなだらかな 名前さえ知らない坂だけど」
10年おきぐらいにいろんなCMソングに採用されているため、
メロディーはよく知られていると思うが、
誰のなんていう曲か、は意外と知られていないようだ。
サザンオールスターズのキーボード・原由子のソロ曲、
『花咲く旅路』はそういう時代の、そういう位置取りの曲だ。
ゆったりとした和テイストの曲で、
歌詞は五文字を基本に構成されている。
すずなりの
はなをつみ
ふくかぜに
なつをしる
五言絶句か。(ちょっと違う。)
ちなみに、頭文字をひとつづつ取っていくと、
「す」「は」「ふ」「な」
なんの意味もない。(なら言うな)
そんな隠しメッセージや、大きな盛り上がりも、サビもなく、
展開を見せるブリッジもなく、淡々と田舎道を歩いているかのよう。
この曲は、「♪咲く紫は旅路を彩る」の言葉を節目に
前半と後半で違う季節を歌っている。
前半は初夏。
「♪吹く風に夏を知る」
風のにおいや吹きかた、風向きや温度などで、
夏が来たことを実感する、とうたっている。
こどもの日を過ぎた、立夏*2のころだろう。
後半は中秋。
「♪今宵は月が旅路を彩る」
夜間も心地よい季節で、月といえば十五夜こと中秋の名月。
旧暦の8月15日は、現在の9月下旬。
「♪稲穂の先が いつしか垂れ頭」*3
これも同じ時期の風物だ。
突出した部分がないから、どこを切りとってもいいし、
どこを切り取っても印象的な雅フレーズが使われている。
そんなだから、短時間勝負のコマーシャルに使われるんだろうな。
名曲・聴きドコロ★マニアックス
紫の花は、いったい何の花だろう。
この曲にはラベンダーとか、アメジストセージとか、
そういうカタカナ名の花は似合わないと思う。
小難しい漢字を書く花だろうと想像がつく。
最初に出てくる、初夏の「鈴なり」(ちいさな花が房のようにかたまって咲く花)の
紫の花といって真っ先に思い浮かぶのは
紫陽花。
これが本命なことは間違いない。
しかし、「摘む」という表現は
低木とはいえ、あじさいのような樹木の花には似つかわしくないように思う。
鳥兜かなとも思うが
こんな致死性の毒を持つ植物はやはり似つかわしくない。きれい花だけどね。
個人的な本命は
大根の花*4。紫色の菜の花だ。
そんな、田舎の畑に脇に捨てられたように咲いている紫色の花を想像する。
実はよく知った野菜の花と聞けば、旅のささやかな思い出話にはもってこいだろう。
稲穂の実る秋の紫の花といえば
桔梗だろうか。
しかし花の時期は稲穂が実るにはちと早いかもしれない。
紫苑や
松虫草も捨てがたい。
秋の方は、これといったヒントが全然ないので、こうやって想像して楽しむのが良いだろう。
歌には出てこないが、もしも春のくだりが作られたならば、
菫の花が、旅路を彩るのだろう。
こんな風にあれこれと、紫色の、
決して派手ではないひっそりとした花を見つけて
旅にちょっとした彩を添えるのも一興かと。
(これらの花の写真は、うちの親が撮りためたものから勝手に拝借した)
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
名前さえ知らない坂
坂にイチイチ名前が付いているのは都会の証拠だと思う。
田舎じゃちょっとした坂に命名することはあまりない。
何処へと 鳥は啼き 夢出ずる 国を行く
そのまま解釈すると、
鳥さんが、どこ行こっかなー、と言いながら、
夢の生まれる国を旅している、と取れる。
意味はなさそうだ。雰囲気から出たフレーズだろう。
喜びが川となり 悲しみは虹を呼ぶ
普通に考えたら逆。
通常は、涙が川になり、陽がさすと虹が出る。
しかし、あえて喜び「が」としている。
悲喜こもごもというやつか。表裏一体なんだろうな。
なおこの曲は、旅=人生ととらえると、
少しは意味が違ってくるかもしれない。
でもたぶん考えすぎ。
夏の始まり→成人の時期か。なだらかな坂を上っていく。
そこに紫の花を見つける。この花は何だろう。運命の男性たちだろうか。
秋を迎える→老境に差し掛かる時期か。
レールのない人生を、それでも上手に歩んできた。
そこに紫の花を見つける。 この花は何だろう。
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