日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『花咲く旅路』 原由子 ~ 花の紫色は人生の色か

ときはまだまだ、バブル景気を強く引きずっているころ。

日本中すべてが浮かれまくって
「♪24時間戦えますか?」
『勇気のしるし』(牛若丸三郎太*1/1989年/
なんて歌まで流行ったイケイケゴーゴーの時代だが、どういうわけかこの時代は郷愁漂うノスタルジックな曲の存在も目立つ。

浮かれすぎた反動なのか、あるいは、余裕があると人は過去を振り返りたがるのか。


「♪遥かなる空の果て 想い出が駆け巡る
  なだらかな このなだらかな 名前さえ知らない坂だけど」

10年おきぐらいにいろんなCMソングに採用されているため、メロディーはよく知られていると思う。
しかし、シングルカットされておらず、チャートをにぎわせることもなかったため、誰のなんていう曲かは意外と知られていないようだ。
まさに、名前さえ知らない歌だけど…という感じだろう。

サザンオールスターズのキーボード、原由子のソロ曲である表題曲は、そういう時代の、そういう位置取りの曲だ。


MOTHER
アルバムジャケット/amazonより
  • 作詞・作曲 桑田佳祐、編曲 小林武史
  • 1991年(平成3年)6月1日、アルバム「MOTHER」収録
  • 歌詞は歌ネットへ:原由子 花咲く旅路 歌詞 - 歌ネット
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:花咲く旅路 - Wikipedia


  • ゆったりとした和テイストの曲で、歌詞は五文字を基本に構成されている。

    すずなりの
    はなをつみ
    ふくかぜに
    なつをしる

    五言絶句*2か。(ちょっと違う)

    ちなみに、この頭文字をひとつづつ取っていくと、
    「す」「は」「ふ」「な」

    なんの意味もない。(なら言うな)


    そんな隠しメッセージもなく、大きな盛り上がりもサビもなく、展開を見せるブリッジもない。
    淡々と田舎道を歩いているかのように、曲は流れる。


    突出した部分がないから、どこを切りとってもいいし、どこを切り取っても印象的なみやびフレーズが使われている。

    そんなだから、短時間勝負のコマーシャルに頻繁に使われるんだろうな。




    なお、先に隠しメッセージはない、と書いたが、旅=人生と見立てると、少しは意味が生じてくるかもしれない。(でもそれはたぶん考えすぎ)

    夏の始まり→成人の時期か。なだらかな坂を上っていく。
    そこに紫の花を見つける。この花は何だろう。
    運命の人、だろうか。

    秋を迎える→老境に差し掛かる時期か。
    レールのない人生を、それでも上手に歩んできた。
    そこに紫の花を見つける。 この花は何だろう。
    人生そのもの、だろうか。



    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    「♪咲く紫は旅路を彩る」の言葉を節目に、前半と後半で違う季節を歌っているのに気づくだろうか。

    前半は初夏。
    「♪吹く風に夏を知る」
    風のにおいや吹き方、風向きや温度などで、夏が来たことを実感する、とうたっている。
    こどもの日を過ぎた、立夏*3のころだろう。

    後半は中秋。
    「♪今宵は月が旅路を彩る」
    夜間も心地よい季節で、月といえば十五夜こと中秋の名月。
    旧暦の8月15日は、現在の9月下旬だろう。
    「♪稲穂の先が いつしか垂れ頭」*4
    時期としてこの風景もちょうど一致する。


    それぞれの季節に歌われる紫の花は、いったい何の花だろう。
    この曲にはラベンダーとか、アメジストセージとか、そういうカタカナ名の花は似合わないと思う。
    西洋の花ではなく、日本に昔からある、しかも小難しい漢字を書く花ではないかと想像する。


    初夏の「鈴なり」(ちいさな花が房のようにかたまって咲く花)の紫の花、といって真っ先に思い浮かぶのは
     紫陽花あじさい
    これが本命なことは間違いない。
    しかし、「摘む」という表現は、低木とはいえ、あじさいのような樹木の花には似つかわしくないように思う。

     鳥兜トリカブト
    かなとも思うが、こんな致死性の毒を持つ植物はやはり似つかわしくない。きれい花だけどね。

    個人的な本命は
     大根だいこん*5
    大根の花は、紫色に咲く菜の花だ。
    そんな、田舎の畑に脇に捨てられたように咲いている紫色の花を想像する。
    実はよく知った野菜の花と聞けば、旅のささやかな思い出話にはもってこいだろう。



    稲穂の実る秋の紫の花といえば
     桔梗ききょう
    だろうか。
    しかし花の時期は稲穂が実るにはちと早いかもしれない。

     紫苑しおん

     松虫草まつむしそう
    も捨てがたい。
    秋の方は、これといったヒントが全然ないので、こうやって想像して楽しむのが良いだろう。


    歌には出てこないが、もしも春のくだりが作られたならば、
     すみれ
    の花が、旅路を彩るのだろう。

    こんな風にあれこれと、紫色の、決して派手ではないひっそりとした花を見つけて、ちいさな旅にちょっとした彩を添えるのも一興かと。


    (これらの花の写真は、うちの親が撮りためたものから勝手に拝借した)



    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    名前さえ知らない坂
    坂にイチイチ名前が付いているのは都会の証拠だと思う。
    田舎じゃちょっとした坂に命名することはあまりない。


    何処いずこへと 鳥は啼き 夢ずる 国を行く
    そのまま解釈すると、
    鳥さんが、どこ行こっかなー、と言いながら、夢の生まれる国を旅している、と取れる。
    深い意味はなさそうだ。雰囲気とイメージから出たフレーズだろう。


    喜びが川となり 悲しみは虹を呼ぶ
    普通に考えたら逆。
    通常は、涙が川になり、陽がさすと虹が出る。
    しかし、あえて喜び「が」としている。
    悲喜こもごもというやつか。表裏一体なんだろうな。




    現在入手可能な音源

    【オリジナルアルバム】
    MOTHER

    MOTHER

    • アーティスト:原由子
    • ビクターエンタテインメント
    Amazon

    【ベストアルバム】
    やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
    ▼ 原由子
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    ※該当曲を聴ける保証はありません。




    脚注

    *1:【牛若丸三郎太】時任三郎の変名。最初は高笑いをする変な侍の役でリゲインのCMに出ていたので、こんな名前になったのだろう。

    *2:【五言絶句】中国の詩の一形式で、漢字五文字刻み=五言で、4つのブロックからなる=絶句、短い詩。春眠不覚暁(しゅんみんあかつきをおぼえず)・・・などが有名。

    *3:【立夏】5月6日前後

    *4:【稲穂の先が いつしか垂れ頭】この歌詞は“実るほど 首を垂れる 稲穂かな” (詠み人知らず) の句が念頭にあることは確かだろう。

    *5:【大根】厳密にいうと、写真のこれはハナダイコンであって、野菜の大根の花ではない