日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『息子』奥田民生 ~ エア息子とロマンチ母ちゃん

10代の頃、どういうわけかこの曲が大のお気に入りだった。
サウンドだけでなく、この歌詞世界にしてやられていたような気がする。
くだけた口調で、無限とも錯覚できる世界の大きさと、人生の可能性を語る、
そのアベコベさにだ。

「♪半人前が いっちょ前に 部屋の隅っこ ずっと見てやがる
              おぅ メシも食わず 生意気なヤツだ」

感情移入したのは、なぜかオヤジの方。
10代の身空で、息子がいるはずもなく、
結婚相手どころか恋人の影すらもなかった時分なのに。


ところが実際、子をもって知ったことだが、
自分の子どもに、そこまでの可能性を見い出さないし、
世界の広さを語れるほど、世界を知らない。
将来の責任なんか全然持てないし、
ただただ平穏無事に、そして欲を出せば、ちょっぴり背伸びしてくれることを、
まるで他人ごとのように願っているだけだ。


「♪憧れや 欲望や 言い逃れや 恋人や 友達や 別れや
   台風や 裏切りや 唇や 出来心や 猥褻や ぼろ儲けの罠や」

ましてや、先々に待ち構えるであろう出来事を、
こんな風に訥々と思い描くほどのロマンチストには程遠い。

そう、この物語は、ある種の理想というか
子を想う親の気持ちはかくあるかなという、
ロマンチシズムなんだろうなと思うようになった。

さもありなん、この時点で奥田民生自身、子もいなければ奥さんもいない。


ソロデビュー前のユニコーン時代の、
『大迷惑』(1989年/ by)や
『働く男』(1990年/ by)、
ヒゲとボイン』(1991年/ by)などで
サラリーマンの悲哀を描くが、奥田自身サラリーマン経験がないのも同じ。
言い方は悪いが、ホームドラマ的世界を描いているに近い。


だけどそれは決して卑下するものでも蔑むものでもない。
物語を紡ぐ者は、決してその道のプロフェッショナルである必要はないからだ。
虫も殺さぬような者にだって、一級のサスペンスは描けるし、
恋を知らぬ者だって、とびっきりのラブロマンスを描き出せるはずだ。


言葉を選ぶ才能と、自分とは違う世界への憧れや渇望こそが、
とびっきりの物語を生み出すのだろうから。



息子 シングルジャケット/amazonより
https://music.apple.com/jp/album/%E6%81%AF%E5%AD%90/573865972?i=573865987&uo=4&at=1001l4PV  
  • 作詞・作曲・編曲 奥田民生
  • 1995年(平成7年)1月15日、ソニーレコーズより発売
  • オリコン最高位2位、年間60位(1995年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:息子 奥田民生 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:息子 (奥田民生の曲) - Wikipedia

  • 話変わって、歌詞カードには出てこないこの曲の最後のヴァース、
    ここで「♪小豆相場*1や」と歌っていると、都市伝説のように囁かれている。

    だけどこれはあまりにも、「いかにも奥田民生」っぽ過ぎやしないか。
    まことしやかに「レコード会社の人がオフレコで言っていたらしい」的な
    伝聞まであって、うさん臭さがぷんぷんだ。
    そう聞こえなくもないが、そうは言っていないような気もする。


    おそらく実際のところは、オケ録音時のガイドボーカル(仮唄)を、
    ギターのマイクが遠くに拾ってしまっただけで
    隠しメッセージとかそういうものではない、というのが正解なんだろう。

    そこをあえて、なんと言っているかの聴き取りに試行錯誤してみることにした。
    奥田も敬愛するビートルズに対し、
    ビートルマニアたちが、ありもしない楽曲の裏の裏まで追求する感じで・・・


    とりあえず音声加工してみた。

    ああ、音が汚くなるだけでちっともうまく拾いだせない。
    10点満点で1点なり。
    だけど、フェードアウトして聞こえなかった最後のギターソロだけは
    はっきり聞こえるようになったのでオマケで2点。
    計3点。まずまずかな?



    そんなこんなで自分なりに聴きとった結果が以下。
    「♪安心や 肉親や うたかたや 秋の空に 約束や 憎しみや・・・」

    文字にした上で聴くと、まるでそう歌っているようにしか聞こえなくなっていけない。
    だけど、それであれば
    「♪酒池や 肉林や 二股や 小豆相場や 役得や 肉臭や・・・」
    と文字にして聴くと、、そうとも聞こえてしまう。うむぅ。
    やはり謎は謎のまま放っておくべきか。



    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    俺なんかよりずっとイケる別嬪さんにきっと惚れられる
    「俺なんかよりずっとイケる 別嬪さんに」
    とメロディー通りに区切ってしまうと、
    俺よりもイケてる美人、に惚れられるという意味になってしまい、
    つまりは「俺」って実は母親だったの?ってトンデモ解釈になってしまう。

    確かに誰も、主人公は男だと言ってないけどさ。
    母ちゃん目線でも問題ないわけだ。


    意味的な区切りでスペースを空けて書くならば、
    「俺なんかよりずっと イケる別嬪さんに きっと惚れられる」
    こんなこと書かなくても、わざわざヒネクレた解釈する奴はいないけどな。


    まだ存在のない「エア息子」に、ロマンチスト母ちゃん。
    案外になかなかいい組み合わせじゃないか。



    全然関係ないけど、「じゃあお前は何なんだ」というシロモノがあったので紹介しておく。
    ここでいうエアーポットの「エアー」は「エアギター」と同じ意味合いで、
    実体のない架空の存在のようだ。



    その腕とその足で戦え
    道具も使わず、ひとにも頼らず、
    自分の人生は自分自身で切り開けという、
    手は貸さないぜ宣言。
    見守ってやる宣言でもあるかもしれない。

    だけど口は出しちゃうんだな。これが。



    現在入手可能な収録CD/視聴可能



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    ▼ 奥田民生 
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    ※該当曲を聴ける保証はありません。




    脚注

    *1:先物取引における代表的な投機先。小豆が収穫される前から決まった価格で必ず売買することを約束しておくこと。作物の価格は気候などの影響で作況が変動するため乱高下しやすい。固定費で取引した結果、値段が上がっていれば高く売りさばけるため儲けが大きい半面、逆だと大損する。