日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『聖母たちのララバイ』 岩崎宏美 ~ この子守歌はテンションが高すぎて眠れやしない

どこまでも、上がっていく音階の歌唱。

どこまでも、ヒートアップしていく演奏。

 

歌いだしからクライマックスまで、

この歌唱と演奏の二つが

螺旋のように絡み合い上り詰めていく。

まさに圧巻。

 

 

ん~、あふれる思いが強すぎるのか

うまく文章で表すことができない。

自分の中では5本の指に入るくらいの、屈指の名曲だと思っている*1

 

 

しかし、「♪さぁ 眠りなさい~」とやさしく始まる割には

次第に歌い手がエキサイトしてしまって

これではとてもじゃないが眠れない!

 

 

聖母たちのララバイ
シングルジャケット/amazonより
 
  • 作詞 山川啓介、作曲 木森敏之・John Scott、編曲 木森敏之
  • 1982年(昭和57年)5月21日、ビクターエンターテイメントより発売
  • オリコン最高位4週連続1位(年間3位/1982年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:聖母たちのララバイ 岩崎宏美 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:聖母たちのララバイ - Wikipedia
  •  

     

    ところで、タイトルの『聖母たちのララバイ』だが、

    なぜ、聖母(ここではマドンナと読ませている)「たち」と

    複数形になっているのだろうか。

    「マドンナ」以外の語句は歌詞中には登場しないので、

    おそらく曲ができてから後付けされたタイトルだろうと思う。

     「聖母」という字があてられたのもその時かもしれない。

     

    「たち」を入れた方が言葉の響きがいいことは確かだが、

    「♪いつも私は あなたを遠くで見つめている 聖母」

    歌詞中には、女性は主人公一人しか登場しない。

     

    しかし、「たち」を抜いて「聖母のララバイ*2」では

    聖母マリアの子守歌、という意味になってしまう。

     

    おそらくそのためだろう。すでに歌詞中に使用している

    「マドンナ」という語句を違和感なく受け入れられるように、

    女性が持つ、”普遍的な母性”の象徴としての「聖母」

    という意味合いを持たせるため、

    女性一般をさすように「たち」をつけた、という推測が成り立つ。

     

    それ以前に、「♪私は、、マドンナ」

    というのは、何かとまずかろう

    という判断が働いたのかもしれない。

     

     

    女性は一人しか登場しない、と書いたが

    「♪男はみんな 傷を負った戦士」

    男は複数登場している。

     

    男たち一人ひとりに、

    弱い部分を見せることで、母性をくすぐられた、

    聖母がいるのかもしれない。

     

     

     

    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    この曲を語るうえで避けて通れない部分なのでここで触れておく。

    この曲の作曲者「木森敏之、ジョン・スコット」と連名になっている点だ。

    これは発表後に盗作の指摘があったことに由来する。

     

    問題の『Laurel And Owens』(1980年/ by)と聴き比べると、

    たしかに、Aメロがそっくりだ。

    これが故意の盗作*3か、偶然の一致か、潜在意識下の引用*4か、

    どれが正しいのかはここでは置いておいて、

    この問題が勃発したときは、名を捨てて実を取る対応が行われたことに着目したい。

     

    通常は、プライドを守るため、そして

    言いがかりだという気持ちを前面に押し出して

    降りかかる火の粉は払いのけるのが通常の対処だ。*5

    しかし、この争いでは、訴えられた側がいともあっさりと折れた。

     

    争えば、勝つにしろ負けるにしろ販売に影響も出るだろうし、

    場合によっては販売差し止めになる可能性だって無くはない。

    ブームが去ってもなお、裁判だけが延々と続く、

    なんて事例も過去にいくらでも見受けられる。

     

    そこを、訴訟人を共作者のひとりとしてクレジットすることで、

    曲が売れるほど訴訟人にも利益になるように和解を成立させた。

    敵対するのではなく、むしろ味方に引き入れて

    バックアップさせる道を選んだのだ。

     

    もちろんこのことは、盗作を公に認めることとなるので

    作者側の名誉は相当損なわれる。

     

    しかし、『聖母たちのララバイ』という曲にとっては、

    足を引っ張るものがなくなるので、

    これが一番良い幕引きだったのだろう。

      

     

    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    「できるのなら 生まれ変わり あなたの母になって」

    屁理屈をこねれば、女性の方が生まれ変わっても、母になることはできない。

    男が生まれ変われば、女性が母になることもあるかもしれない。

    「可能であれば、あなたを殺して、生まれ変わりのあなたを産んでみせる。」

    こわい。

     

    「この街は戦場だから 男はみんな傷を負った戦士」

    短絡的に、戦地での歌、と思ってはいけない。

    この街を戦場としてとらえると、男はみんな戦士なんだ。

    という意味。

    本当に戦場であれば、「戦場だから」

    という前提条件を付けるはずがない。

     

    世間でもまれる男が、ふと見せた涙を見て

    恋愛よりも強い、母性の愛で包み込もうという

    主人公の決心を表した曲。

     

    勝沼*6のよう地形を見ると、

    「♪この街は 扇状地だから~」

    とおもわず歌ってしまうのは、大変良くない。

     

     

     

    現在入手可能な収録CD/視聴可能
    夕暮れから…ひとり

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    脚注

    *1:一般的なヒット曲の中では、の話。ほとんど知られていないけど自分は大好き、というようなものは除く

    *2:ララバイ:イタリア語で子守歌の意

    *3:いわゆるパクリ

    *4:思いついたフレーズが、実はどこかで聴いて刷り込まれていたものだった

    *5:わが敬愛なるジョージ・ハリスンは『マイ・スウィート・ロード』(1970年/ by )が

    盗作騒ぎで訴えられた時には、結局裁判で負けたが最後まで争っている。

    このときは、第3者(しかもジョージの関係者)が、賠償金をとるために曲の権利を買い取って訴えたのだから

    非常にたちが悪い

    *6:山梨県の町の名前。ワインとブドウと、扇状地で有名