日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『渡良瀬橋』 森高千里 ~ 素直な音色を奏でる地名オタク

表題曲の前年にも、『ロックンロール県庁所在地』(1992年/ by)という、
タイトルからしイカレた楽曲を本人の作詞・作曲で発表*1しているくらいなので、
森高千里は、おそらく地図・地名のマニアの類なのだろうと推測する。

九州出身の本人とは、ほとんど接点のない北関東という場所にもかかわらず、
地図でみつけたという川と、それに架かる橋の名前から着想を得て
シングル曲を作ってしまうのだから、筋金入りというやつだ。


渡良瀬橋

栃木県足利市を流れる、渡良瀬川に架かる橋。
幹線道路でもなんでもない、こんな地元民しか利用しないマニアックな橋は、
学校で使う地図帳などで見つかるようなメジャーなシロモノではない。

この曲で脚光を浴びる前は、地元民でも正式名称を知らないような橋*2だったようで、
紙の地図と、文字通りのくちコミしかなかった当時においては、
この橋にたどり着けた時点で、かなりの好き者だと断言してよいと思う。


そんなきわめてローカルな地名をモチーフに、
かつて破れた恋を懐かしむ歌詞を作り上げたのだが、
そんなことよりも個人的には、表題曲に限らず森高の作る歌詞には、
どうしても引っ掛かりというか、抵抗感が付きまとってしまう。

「♪渡良瀬橋で見る夕陽をあなたはとても好きだったわ」
というような女言葉が、どうにも居心地が悪いというか、
聴いている行為すら、照れくさくなってしまうのだ。
こういう言葉遣いの人間が、身の回りに居なかったせいもあるかもしれない。

「♪人生だわ これも巡り逢いなのね」
(『気分爽快』1994年/ by
「♪遠い街ならあなたのこと 想い出に出来そうだわ」
(『風に吹かれて』1993年/ by
「♪傘も差さず ふたり黙っているわ」
(『雨』1990年/ by
「♪とても心配だわ あなたが若い娘が好きだから」
(『私がオバさんになっても』1992年/ by

これがもっと古い曲であれば、そういった歌詞もしばしば散見されるので、
不思議と違和感なく聴けるのは何故だろう。時代背景だろうか。
作詞家によるお仕着せの言葉ではなく、
本人作詞の言葉遣いである点が意外と大きいのかもしれない。


森高以降に「だわ」「わよ」なんて女言葉遣うシンガーソングライターなんか存在しない
・・・という感じに話を進めようと、意識して聴いてみたら
Judy And Mary が 『自転車』(1995年/ by)で
「♪あなたの声が響いてる 響いているわ」とこともなげに歌っていて、撃沈。
探してみると他にも結構あるんだよな。TUBEとか。(それはちょっと違う)



シングルジャケット/駿河屋より
渡良瀬橋

渡良瀬橋

 
  • 作詞 森高千里、作曲・編曲 斉藤英夫
  • 1993年(平成5年)1月25日、ワーナーミュージックより発売
  • オリコン最高位9位 (年間96位/1993年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:渡良瀬橋 森高千里 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい: 渡良瀬橋 (曲) - Wikipedia


  • そんなこんなで曲を聴き進めているうち、
    間奏で流れるリコーダーのチープな音にズッコケそうになる。
    これは森高本人による演奏とのこと。

    ひとつひとつの音符を丁寧に拾っていくような森高の歌唱に
    近い響きといえば、たしかに近いのだが、
    曲調からすると、前奏でも聴けたフルートでよかったんじゃないかと。
    そう思えてしょうがないが、練習する間が取れなかったのだろうか。

    リコーダーと同じような手軽な楽器で、素朴な音が欲しければ
    オカリナやパンフルートとかの方がよかったんじゃないだろうか。
    そもそも、本人が演奏する必要もないように感じるが、
    まぁ、それこそ余計なお世話だわな。



    ちなみに、ドラムスとピアノも森高本人の演奏とのこと。
    このドラマー出身という妙な経歴を持つアイドルにとっては、
    ここへ来てようやく、本人の我が通せるくらいのポジションを得たのだろう。
    実に安定したドラムさばきを聴くことが出来る。
    (危なっかしいリコーダーとは大違いだ)

    同じように、ドラマー出身のシンガーであるカレン・カーペンターが、
    カーペンターズが世界的ヒットを連発するにつれ
    徐々に演奏から遠ざけられてしまったのとは対照的だ。




    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    渡良瀬橋
    本家の渡良瀬橋は、もっと上流、かつての足尾町渡良瀬にある。
    のちに下流足利市に架けられた橋が、
    おそらくは渡良瀬川にかかるからという単純な理由で
    渡良瀬橋と名付けられ、表題曲の舞台になったようだが、
    同じ川の別の場所に、同名の橋があっても特に問題にはならなかったのだろうなぁ。
    どっちも街道筋でもなんでもないローカルな橋だし。


    渡良瀬川
    かつて、渡良瀬川といえば田中正三だろ、と口にしたところ、
    森高ファンの友人ひどく怒られたことがある。
    ちなみに、本稿の森高千里像はその友人の影響にあるところが大きい。
    そんなコに教育した覚えはありません!と言われてしまいそうだが。

    それはそうと、田中正三とは、渡良瀬川流域で発生した、
    日本で最初に問題になった公害事件を世に訴えるために、
    明治天皇に直訴状まで出した国会議員だ。(直訴は未遂に終わったらしい)

    小学校の時、道徳の授業でこの話を知ったが、
    担任からの、田中正三と彼の行動についてどう感じたかという動議に対し、
    最期の所持品が、わずかな身の回りの品と小石だけだったというその生きざまに
    クラスとしての結論として
    「遺品が『お気に入りの小石』である人間がまともであるはずはない」
    という意見で押し通してしまったことを覚えている。
    今思えば、先生には悪いことをしたものだ。若い先生だったものなぁ。



    現在入手可能な音源

    【オリジナルアルバム】
    LUCKY 7

    LUCKY 7

    • 発売日: 2013/12/25
    • メディア: MP3 ダウンロード

    【ベストアルバム】
    やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
    ▼ 森高千里
    icon icon

    ※該当曲を聴ける保証はありません。




    脚注

    *1:【ロックンロール県庁所在地】アルバム「ペパーランド」収録

    *2:【地元民でも正式名称を知らないような橋】自動車橋では比較的珍しいトラス橋(三角形を組み合わせた形状の鉄骨の覆いを付けた橋。鉄道橋に多く見られる。)であるため、通称「鉄橋」と呼ばれていたらしい