中山競馬場のGⅠファンファーレ(
)にも代表される稀代のファンファーレの名手、作曲家・すぎやまこういちの面目躍如というべきだろう。
表題曲においては、Aパートのファンファーレを、トランペットが高らかに歌い上げる。
一転ゆったりとおとなし目のBパート、転調を挟みながら感傷的な盛り上がりを見せるCパートへと続き、Bパートのメロディに波打つような伴奏を伴ったDパートへとつながる。
駆け足気味に一気にテンポアップして歯切れのいいのEパートに突入し、冒頭のファンファーレをめまぐるしく展開させながらの怒涛のエンディングに向かう。
ラストにティンパニーのロールを伴った低音が重厚に締めくくる。この余韻がたまらない。
映画やドラマ主題歌のように、物語が持つ感動をそのまま思い出として内包したために、曲自体が持つポテンシャルを大きく超えて、愛されるようになる楽曲がある。
コトによっては、物語を体験していない者から見れば、果たしてそこまでのモノだろうかと、首を傾げ、自分から見た評価と周囲の評価のギャップの大きさに、どちらが正しいのか、楽曲としてどう評価したらよいか悩むということも少なくない。
表題曲がそういうものなのかどうか、自分には判断が下せない。
物語の影響を受けて、とんでもなく目が曇りまくっているのは自分でも認識しているからだ。
ビデオゲーム黎明期にそびえ立つ超巨大金字塔、「ドラゴンクエストⅢ*1 そして伝説へ・・・」のフィナーレを飾るこの表題曲は、自分にとってそういう曲だ。
物語を締めくくるフィナーレを飾る曲として、これ以上のものは無いと信じ切っている。
売上チャートを見ても、歌の全く入らない管弦楽曲としては異例のアルバム週間チャート2位(年間31位)を記録。
これが、次の『交響組曲ドラゴンクエストⅣ』(1990年/NHK交響楽団)の週間チャート1位(年間50位)に繋がったのは間違いない。
ジャンル別チャートじゃなく、総合チャートでの1位だ。快挙と言っていい。
タイトルをそのまま具現化したかのように、半ば神格化され愛されるこの曲に対し、当の作曲者であるすぎやま自身は、扱いに困るのかいくらか照れくさそうに接しているフシがあり、再演するときには、駆け足気味で済ませてしまうこともしばしばだ。
とはいえ、序曲『ロトのテーマ』から『そして伝説へ・・・』のつながり*2は、個人的に聴くたびに涙ぐんでしまいそうになるほど思入れが半端ない。
思い入れが強すぎて、以下楽曲の紹介というよりは、ゲームにまつわる思い出話を延々と語ってしまうことになるであろうことを、あらかじめお詫びする。
数年に1度くらいのペースで新作が出るドラゴンクエストだが、正式な制作発表は、必ず少年漫画誌「週刊少年ジャンプ」誌上で行われることは、その界隈では比較的よく知られている。
これはドラゴンクエストの誕生に、ジャンプの多大なバックアップがあったことが大きい。
一方、実はジャンプよりも早く新作発表のニュースを発信していたメディアがあったことは、あまり知られていないように思う。
それはジャンプの発表より数日早く、ダイレクトメールにて行われていた。
これは、ゲームソフトに同封されていたアンケートはがきに答えると、発売元のエニックスからご褒美のようなダイレクトメールが送られてくるようになるものだ。
制作開始発表、発売日決定、発売直前と、たびたびハガキや封書で送られて来た。
ドラゴンクエスト2の発売間際に届いた見開きA3のパンフレットなどは、うち面がワールドマップになっており、ゲームプレイに大変重宝したものだ。おかげでボロボロのつぎはぎだらけになったが、いまでもちゃんと取ってある。
ドラゴンクエストⅤの制作発表までは、ご丁寧に手書きの宛名書きで届いていた*3ので、いかにエニックスが、このアンケートはがきを大事にしていたかがわかる。
それもそのはずで、そもそもこんな無名のゲームに大物作曲家*4がついたのは、アンケートはがきに、すぎやま本人が答えたのがきっかけだったというのだから*5、
アンケート回答者を大事にするのも無理はないだろう。
ともかく、このダイレクトメールのおかげで、クラスの誰よりも早く発売情報をキャッチしていた自分は、ジャンプの発表を待つことなく、友達に自慢するよりも前に、ハガキを片手にスーパー長崎屋のゲーム売り場*6に駆け込み、毎回新作の第1号の予約を勝ち取っていく、今思えばいけ好かないガキであった。
社会現象にもなった購入客の行列のニュース*7を尻目に、整理券番号を持たないガキ(店が整理券を用意するよりも前に予約したから当然だ)が、使わずに取っておいたお年玉片手に、学校終わりの時間に悠々と購入していたのだ。
さて、当時、親からプレイ時間制限を掛けられていたために、ゲームの進み具合は級友よりも後れを取っていたが、そんなことは関係ない。
物語に没入し、世界各地の身勝手な王様たちに翻弄され、ヤマタノオロチの強さに呆れ果て、やがてアレフガルドに堕ちた身に降りかかる衝撃の事実。
そして次第に「自分が何者であるか」を悟っていくという過程の、本来起こりえない驚きと興奮は、なんの予備知識もなく、順を追って初代、Ⅱ、Ⅲとたどった者だけが味わうことが出来た、幸せな時間だったと思う。
やがて物語はクライマックスを迎える。
不意に、永遠に失われていたはずの序曲が流れ、表題曲に差し掛かった。
これまでに旅した場面が次々と画面に映し出され、ここで、自分は生まれて初めて「終わることの恐怖」を味わったと思う。
終わってしまう。物語が終わってしまう。
初めて聴く曲だが、楽曲がどんどんフィナーレに近づいてくることが感覚で分かってしまう。
そしてラストに、ロトの洞窟が映し出され、すべてはここから始まった*8ことに思いあたり、クレジット表記とともに最終音が鳴り響く。
放心状態のまま、音が消えてもしばらくはリセットボタンを押すことが出来なかったと思う。
のちにプレイしたスーパーファミコンのリメイク版(1996年)では、楽曲のリピート部分をオーケストラ版同様にカットした(ファミコン版では、Dパートの次にCパートとDパートをリピートしていた)ために、エンディングがやけに短く、最後の場面がロトの洞窟じゃなかったことに大憤慨した。
このアレンジではエンディングの尺が足りないことに対し、誰も意見できなかったのだろうか!ぷんぷん!
・・・てな感じでアンケートはがきに書いてエニックスに送ったが、はたしてその意見は、少しは制作者側に届いたのだろうか?
その後のリメイク作には手を出してないために、どうなったかを知る由はない。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
交響組曲
例によって音楽のジャンルは、定義があいまいなことが多く、諸説ある、というよりは人によって分類の分け方が違い、また、名乗ったもの勝ち、という側面もあって説明が難しい。
ごく大まかに説明するなら、交響組曲とは
交響楽団──弦楽器、管楽器、打楽器などを含めた大編成の楽団が演奏する、
組曲──ひと揃えの楽曲 という意味になる。
ちなみに、日本語ではよく似た言葉の「交響曲」は、楽章の構成などにある程度の決まりごとがあるので、こういう、寄せ集めの曲を指すには使用されない。
クエスト
”QUEST”──探し求めて旅をすること、転じて冒険の意味。
なかば日本語にもなっている、”Question” ──質問 や、"Request "──要求 と語源は同じで「探求すること」というような意味が根底にある。
つまりは、ドラゴンクエストとは、本来の意味でいうならば
世界各地にあるドラゴンの伝承調査を行い、その真実を追究する、というような、民俗学ないし考古学の学術調査の旅、的な意味合いとなる。
現在入手可能な音源
やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット
※該当曲を聴ける保証はありません。
脚注
*1:【ドラゴンクエストⅢ】以下DQ3と表記する
*2:【『ロトのテーマ』から『そして伝説へ・・・』のつながり】オーケストラ版組曲では、それぞれ序曲とフィナーレという扱いのため、離れて配置されているが、ゲーム中ではエンディングでこの2曲が続けて演奏されていた。
最初のファミコン版のDQ3は、容量の関係でオープニングがカットされた(!)ため、序曲はこのタイミング以外では聴けなかった。
*3:【手書きの宛名書き】正確に言うと、そのあとの1991年の漫画雑誌「少年ガンガン」創刊のお知らせまでは手書きで、1992年の年賀状からは、印字の宛名ラベルになっていた。
*4:【大物作曲家】音楽番組のディレクターとしてザ・ピーナッツの売り出しに関わり、タイガース(沢田研二や岸部一徳のいたグループサウンズの雄)の名付け親であり、稀代のヒットメーカー筒美京平の師匠であったりと、なんだかとんでもない経歴の持ち主が、なぜか晩年には「ゲーム作曲家」を名乗るようになった。
*5:【アンケートはがきがきっかけ】これもそのスジではよく知られている逸話だが、パソコンゲーム「森田将棋」のアンケートはがきに、ボードゲームフリークでもあるすぎやまが回答してきたのが縁というのだから、わからないものだ。
*6:【スーパー長崎屋のゲーム売り場】ここは、どんな人気作でもかならず2割引(だったと思う)で売ってくれる上に、店員がゲームの素人(?)なので、発売日も決まっていないようなゲームでも、証拠があれば子どもの予約でも受け付けてくれたので大変重宝していた。
*7:【社会現象にもなった購入客の行列のニュース】発売日は平日だったが、朝から各地の販売店に行列ができ、学校を休む子どもや、東京の家電量販店では数キロも続くような長蛇の列が出来、大きなニュースと問題になった
*8:【すべてはここから始まった】初代「ドラゴンクエスト」の最初の洞窟、最初に勇者ロトの言葉に触れたこの場面で終わるなんて、なんて粋なことをするんだろう。