日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『東京節』 添田さつき ~ 大正のリズムネタだよパイのパイのパイ!

「♪ラ~メちゃんたら ギッチョンチョンで パイのパイのパイ
   パ~リコっとパナナで フライフライフライ」

嬉しくなっちゃうくらい意味の無い歌詞に、もろ手を挙げてバンザイだ。
ここまで強烈な無意味っぷりをカマされた日にゃ、この歌詞に意味を求める行為こそ、無粋ぶすいってモンだろう。


表題曲よりも前時代、明治の世に流行した『オッペケペー節』*1(1880年代後半/)の
「♪オッペケペー オッペケペー オッペケペッポ ペッポッポー」
のような節をつけたスキャットのような単なる掛け声とも違って、所々に「たら」とか「で」「の」といった、言葉をつなげる語句が使われているものだから、実は何か隠語的な意味があるんじゃないかと勘ぐりたくなってしまうのが正直なところだけれども。

意味がないことにこそ意味がある、というのが一番の正解なのだと思う。
ここでネットで見つけたような、こじつけに近い意味を、したり顔で唱えるほど野暮ではないつもりなので、「パナナ」の意味を想像して楽しむのは、各人の楽しみとして皆にゆだねてみようと思う。(体のいい手抜き)



さて「東京節」と名乗るだけあって、東京の古今名所が軽快なメロディーに乗せて数多く歌われている。

一番の歌詞では、毎年正月に行われる箱根駅伝*2のゴール付近とほぼ同じコースをたどる。
日比谷通りを内幸町交差点付近から皇居方面に向かい、和田倉門の交差点で右に折れ、東京駅に至るまでの、近代的な建物が並ぶ景色だ。
日比谷公園、帝国劇場、警視庁、馬場先門、海上ビルディング、東京駅。
日比谷通りの一区画向こうの建物である両議院や諸官省も登場するが、当時であれば、通りに面する建物越しに、これらの建物も普通に見えていたのだろう。


二番の歌詞では、今も昔も東京随一の観光地である、浅草界隈が歌われる。
現代でもお定まりの観光コースである、雷門を起点に参道をたどり、浅草寺境内を左手に折れて国際通りに至るまでの、下町の風景。
雷門、仲見世、浅草寺、活動写真、浅草十二階、花屋敷と歌われる。


挙げられた名称を見て思うのは、その多くが今でも聞き覚えのある場所であり、時代を1世紀さかのぼった大正時代の歌であるにもかかわらず、現役で存在しているものばかりじゃないか、ということだ。
しかし実は、当時唄われた建物のほぼすべて、すでに失われて存在しない。
このわずか数年後に発生した、関東大震災が主な原因だ。

流行歌明治大正史 別巻 表題曲に直接は関係ないけど、
添田知道(さつき)の関係図書/amazonより
パイノパイノパイ (東京節)

パイノパイノパイ (東京節)

  • 塩田美奈子
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
やけに陽気なカバーバージョン
  • 作詞・編曲 添田さつき、作曲 ヘンリー・クレイ・ワーク
  • 1919年(大正8年)ころの発生
  • 歌詞は歌ネットへ:榎本健一 東京節(パイのパイのパイ) 歌詞 - 歌ネット
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:パイノパイノパイ - Wikipedia

  • 関東大震災だけでなく、東京大空襲など幾度も壊滅と復興を繰り返し、その後何世代という時を経た。
    にもかかわらず多くは同じ場所、あるいは少し場所を変え、形を変えつつも組織が継続し、建物も再建されているため、名称を聞くと今の姿が想起されることで歴史上のもの、という印象がほとんど感じられないだけなのだ。


    かろうじて当時の姿を残している建築物は、おそらく東京駅だけだろう。
    しかし名称からして過去の遺物となってしまったのもまた、両議院と、浅草十二階だけだろうと思う。
    もちろん、東京駅をポッポと走る蒸気機関車は今は影も形も存在しないし、警視庁や各省庁は、日比谷公園を挟んだ反対側に移転してしまったのだけれども。

    とはいえ、ここに歌われている「いかめし館は警視庁」のフレーズに、現代の見上げるような警視庁の建物を想像しても、受ける印象はさほど変わっていないと想像がつくし、「粋な帝劇」にしても、現代の帝国劇場のホール内部の華美な印象のままでさほど差し支えないだろうと思う。
    (実際のとこは昔の姿どころか、今の姿も知らんのだけどね)


    浅草の景色にしたって、今の浅草のほぼすべてが戦後に再建されたものばかりであったとしても、東京を代表する観光地であることは今も昔も変わらず、表題曲を聴いて今の浅草の景色を想像することに何の問題もないのだ。



    なお、表題曲には派生した歌詞が多く、出典によって歌詞が大きく異なる。
    歌のタイトルからして、見出しに挙げた『東京節』のほかにも
    『パイノパイノパイ』『平和節』『パイのパイ節』『解放節』
    というタイトルでも知られ、全然定まっていない。
    定まらない理由の一つに、この歌の来歴が関係している。

    それは、この歌自体が現代でいう「お笑い芸人のリズムネタ」だからだ。
    出自が大道芸というか、ストリートパフォーマンスのようなものであるため、ご時世どころか、その時々の思いつきに合わせて歌詞がどんどん派生していったのだろう。
    なかには『ドリフのバイのバイのバイ』(ザ・ドリフターズ/1976年/)のように、歌詞がまったく原形をとどめていないようなカバーも存在するくらいだ。



    ところがぎっちょん*3、そんなコトより何が一番びっくりするかって、この曲の大元ネタが、1865年に作られたアメリカの行進曲だってこと。
    2002年の平井堅のカバーでも知られる童謡『大きな古時計』()、それと同じヘンリー・クレイ・ワーク作曲だということだ。

    それで堂々と「東京節」と名乗るのだから、いやはや恐れ入る。



    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    両議院
    大日本帝国議会の当時の両院(衆議院と貴族院)の議事堂。歌詞に登場する建物は明治24年完成。大正14年焼失。
    現在は衆議院と参議院の両議院となり、国会議事堂がその代わりとなっている。

    日比谷公園
    明治36年開園。敷地内の建物に変遷はあるものの、場所も特に変わらず現在に至る。

    帝劇
    帝国劇場のこと。歌詞に登場する建物は、明治44年完成。関東大震災により大正12年焼失。現在も同じ地に再建され劇場として存在している。

    警視庁
    おなじみ東京都の警察本部。よく勘違いされるが、これは警察組織の本部ではなく、各道府県警と同じ東京都だけの地方組織なので注意が必要だ(何に?)。
    歌詞に登場する建物は、帝劇と同じく明治44年完成、関東大震災により大正12年焼失。
    その後警視庁は霞が関に移転し、跡地には現在第一生命ビルが建っている。

    諸官署
    皇居のお堀を馬場先門から渡った向こう側。現在の皇居外苑。この付近にあった旧大名屋敷が、当時大蔵省をはじめとする諸官庁の敷地になっていた。
    やはり関東大震災により大正12年焼失、その後霞が関に移転している。

    海上ビルディング
    大正7年(1918年)9月に出来たばかりの東京海上保険の本社ビル。
    表題曲の成立年は文献によって異なるが、1918年とか19年とか言われているのは、この海上ビルが登場することが主な根拠になっているものと思われる。
    関東大震災、東京大空襲を経ても建物は残ったが、昭和41年に解体されており、現在の東京海上日動ビルは2代目。

    東京駅
    大正3年完成。この歌に歌われた当時の外観が現存する、おそらく唯一の建物。
    長らく、空襲で破損した部分に応急処置を施したままの姿だったが、2012年に当時の姿を復元する改修工事が完了した。

    浅草寺 仲見世 雷門
    徳川幕府以前からある名刹、その門前町と、参道入口。
    現在でも東京を代表する観光地だが、浅草を中心とする東京下町は、関東大震災、東京大空襲とたびたび焦土と化しており、現在あるものはいずれも比較的新しい時代に再建されたものだ。

    花屋敷
    日本最古の遊園地として名高いアミューズメントパーク。
    前述のように浅草にあったものは幾度の興亡を経ているが、現在も今も同じ場所に営業している。

    活動
    活動写真(映画)のこと。ここで歌われているのは、明治36年にできた日本最初の映画専門の上映館、浅草電気館のことと思われる。
    現在は映画館はなく、平成になって建てられた電気館の名を冠した複合ビルになっている。

    十二階
    浅草十二階こと、凌雲閣。明治23年完成の、日本一の高さを誇った12階建てのビル塔。
    関東大震災で崩れ落ちた姿は、震災の象徴ともなった。
    現在は代わるのものが存在せず、完全に歴史上のものとなっている。


    現在入手可能な音源
    [asin:B00CFC3MM4:detail] こちらは元ネタのジョージア行進曲




    脚注

    *1:【オッペケペー節】歌というよりも、都都逸とかそういう古典的(?)な話芸に近いように思える。1900年のパリ万博で、日本人が最初に吹き込んだ商業用レコードの存在でも知られる。

    *2:【箱根駅伝】第1回箱根駅伝が、1920年のこと。表題曲の登場とほぼ同時期なのが興味深い。

    *3:【ところがぎっちょん】表題曲が発生したころに流行した言葉。「ところがどっこい」とほぼ同じ意味、使用法になる。「ぎっちょん」という音が「ところが」を強調しているのだが、特に意味はないし、意味を求めることこそ意味がない