カバーソングの王者といえば、ザ・ドリフターズだと思っている。
もちろん、この稿における「ザ・ドリフターズ」とは
日本一のコメディーグループ、いわゆる「ドリフ」のことで、
『ラストダンスは私に』(1960年/ by
)などで知られる、
アメリカのR&Bバンド「ザ・ドリフターズ」のことではないことは言うまでもない。
ドリフといえば、コントグループというイメージがあまりにも強く、
そもそもコミックバンドであること自体がそれほど知られているわけではない。
しかも多くのカバー曲をヒットさせたバンドであるとなると、
今となってはほとんど知られていないと思う。
ドリフの歌唱としてよく知られているのは、テレビ番組のタイトル曲だろう。
「8時だョ!全員集合」のオープニング曲『チョットだけョ!全員集合!』。
この元歌は北海道民謡の『北海盆唄』( by
)だ。
「ドリフの大爆笑」のオープニング曲「♪ド・ド・ドリフの大爆笑」*1は
戦中の啓発曲『隣組』(1940年/ by
)が元ネタ、といった具合に、
ほとんどの歌はオリジナルではなく元歌が存在する。
しかし、ドリフの曲を知っている人たちには、その多くの曲が
ドリフのオリジナルソングだと思われているフシがある。
自分もそのうちの一人だったが、
かつて、戦中戦後の曲を収めたCDを図書館で借りてきたときに、
どこかで聴いたことのある曲がところどころまじっていた。
どこかで耳にしたことがあるんだろうと漠然と思っていたが、
あるとき、どれもこれもドリフの曲たちの元ネタであったことに気づき、
大変驚いたことを覚えている。
聴き比べると面白いので列挙してみよう。
表題曲『ドリフのズンドコ節』( by
)は、
オリコン年間2位、累計枚数80万枚越えという、ドリフ最大のヒット曲になっている。
この元歌はというと、実は作者不詳の伝承曲*2で、
1940年代に海軍でひろまったため俗に『海軍小唄』( by
)と呼ばれるもの。
ドリフ以外のカバー、『アキラのズンドコ節』(1960年/小林旭/ by
)や、
『きよしのズンドコ節』(2002年/氷川きよし/試聴はこの先から)などでも知られる。
『ドリフのバイのバイのバイ』(1970年/ by
)の元歌は、
『東京節』(1918年/オリジナルではないが視聴は→ by
)かと思いきや、
大元はアメリカの『ジョージア行進曲』(1865年/ by
)なのがびっくりだ。
『いい湯だな ビバノンロック』(1967年/ by
)は、
デューク・エイセスの『いい湯だな』(1966年/ by
)が元歌で、
発表年代が近いこともあり、元歌のほうも比較的知られている*3。
前出の「全員集合」「大爆笑」の2番組のエンディングはこの歌のさらなる替え歌で、
前者は『ドリフのビバノン音頭』(1973年 by
)、
後者は『さよならするのはつらいけど』(未音源化)のタイトルが付けられている。
『誰かさんと誰かさん』(1970年/ by
)は、
歩行者信号のメロディーとしてしばしば使われている、
『故郷の空』( by
)が元歌として知られているが、
原曲は作者不詳のスコットランド民謡だという。( by
)
『ドリフのほんとにほんとにご苦労さん』(1970年/ by
)は、
『ほんとにほんとに御苦労ね』(1914年/ by
)が元歌。
これはズンドコ節同様に軍隊で流行ったため『軍隊小唄』の名でも知られている。
『ドリフの早口言葉』(1980年/ by
)のようなものまで元歌があり、
『Don't Knock My Love』(1971年/ウイルソン・ピケット/ by
)があたる。
ちなみに、安室奈美恵の『Try Me』(1995年/ by
)の間奏には、
ドリフの早口言葉の振り付けがピタッと来る。ぜひ一度挑戦してみよう!
・・・といった感じに、主に戦前戦中のごく古い曲を中心にカバーしているのだ。
というか、カバーというよりも替え歌といった方がいいかも知れない。
オリジナルでほとんど唯一思い浮かべられるのは、
ドリフによるテレビ人形劇の西遊記「飛べ!孫悟空」の挿入曲
『ゴー・ウエスト』(1978年/ by
)くらいだろう。
西域に向かう三蔵一行と、西部劇のウェスタン音楽を掛けた軽快な歌で、
元歌どうこうというよりも大変良いパロディになっている。

それにしても、ドリフの兄貴分であるコミックバンド、
クレイジーキャッツが、青島幸雄作品をメインとしたオリジナル曲中心に
やってきたことを思えば、あんまりな扱いなような気もする。
同時期のグループサウンズの連中と比較すると、
いっぱしのバンド出身であるの彼らの演奏は、洋楽のロックテイストがかなり強く、
それに、古い日本のメロディを組み合わせることによって
一般大衆向けにちょうどいいバランスを取っていたのだろう。
間の抜けた歌のベールを取り除いてしまえば、
なんといってもその演奏がキレッキレで
コミックバンドとは思えぬ超一級品なのがニクい。
『ゴーウェスト』のようなオリジナル曲路線でもよかったのかもしれないが、
それだと、ここまでのヒット曲は生まれなかったかもしれない。
果たしてこの演奏が、メンバーの演奏なのかどうか怪しいところだが、
いかりや長介のベースや、加藤茶のドラムスは、
コミックバンドの割には、という注釈が付くものの今でも評価が高いくらいで*4、
彼らの演奏であった可能性を、完成度から否定することはできない。
荒井注ボーカルの時に、彼の担当楽器であるピアノの音が
一番よく聞き取れることからも、その可能性を捨てきれないが、
なにせこの時期のドリフターズの忙しさったらなく、
果たして、練習、オケの録音、歌撮りとしている時間が取れたかどうか。
だからというわけではないが、テレビ収録での演奏でも、
彼らがズンドコ節を楽器片手に演奏する場面はほぼ見受けられなかった。
そこのところを抜きにしたって、彼らの勢いのあるパフォーマンスは特筆もので、
加藤茶のよく響く高音シャウト*5と、
いかりや長介の低音シャウト*6をはじめとした
稀代のシャウター(という言葉があるかどうかは知らないが、叫ぶ人のこと)っぷりを
ここでも十分に発揮している
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
ズンドコ
作者不詳の楽曲であるため、これに対する明確な回答はないが、
単なる擬音的なスキャットと考えて間違いないだろう。
民謡の合いの手「♪アーラエッサッサー」に意味を求めるようなもので
意味を求める行為自体にすでに意味がない。
スットコドッコイ、ドンブラコ。ずんぐりむっくり、ずんだもち!
怠倦期
コント赤信号の小宮孝泰が、
M.Cハマーの『U Can't Touch This』(1990年/ by
)をもじって
「MCコミヤ」名義で「♪倦怠期です!」とうたっていた*7ことも、
すでに記憶のかなたに消えつつある。
それはそうと、倦怠期とは、恋人や夫婦が
お互いを飽きて疎んじ始める時期をいう。
こんなものに名前がついているほど、よくある状況だということだ。
不貞くされ
不貞が腐ると書いて不貞腐れる。
不満をもってやる気をなくすこと、要するにぶーたれることだが、
なんでこんな字を充てたのだろう。
不貞(浮気のこと)が腐ると、もうドロドロの関係ってイメージなんだけど。
不貞寝も、同じような意味合いだけど、
これって字面だけ見ると、すごくいやらしいぞ、おい。
たぶん、太腐れ、がもともとの語源なんだろうと勝手に思う。
現在入手可能な収録CD/視聴可能