もしもあなたが、「ヨーデル」と聞いて
何らかのフレーズを思い浮かべることができるとするならば、
たぶんあなたは、この『山の人気者』という曲を
さわりだけでも知っているといって、過言ではないだろう。
おそらく、ヨーデルの曲で日本で最も知られているものといえば、
アニメ「アルプスの少女ハイジ」の主題歌
『おしえて』(伊集加代子/1974年/ by
)だと思われる。
しかし、「ヨーデル」と聞いてハイジを思い浮かべる人はほとんどいない。
それよりは、ヨーデルといえば、「♪ヨーロレイヒ~」という
まさにそのフレーズを思い浮かべる人が多いと思う。
その元ネタこそが、この『山の人気者』という曲なのだ。
しかし、タイトルにも、歌詞にもヨーデルの「ヨ」の字も出てこないためか、
曲のタイトルを言える人はほとんどいない。
フレーズの知名度に比べ、曲の知名度が恐ろしく低いためだ。
そのわりには、いろんなところで、
つまみ食いのようにこの曲が使われているのを耳にするのが不思議。
たいして一般的ではない、卑近の例で申し訳ないが、
むかし近所に来ていた、牛乳の移動販売車。確か北海道牛乳だったと思うが、
けたたましい鐘の音から始まる爆音を伴って出現するのが常だった。大変うるせい。
しかしてその曲は、『山の人気者』の前奏部分だったことを後から知った。
ミルク屋が主人公の歌だから、この曲が選ばれたのだろう。
長野県に長期滞在したことのある者ならわかると思うが、
「♪ア~ルプッス ワ~インで ヨーロレイッヒー」の
ワインメーカーのテレビCMの元ネタも『山の人気者』。
これもずいぶんローカルなネタだな。
大して面白みのあるCMでもないが、妙に印象的なので、
興味があればアルプスワインのホームページ*1にある動画を見てみるといい。
現在、いちばん耳にする可能性があるのは、
「♪食~べ放題~」というフレーズでおなじみの
『ヨーデル食べ放題』(桂雀三郎withまんぷくブラザーズ/1996年/ by
)
だろうか。
これも明らかに『山の人気者』を下敷きにした曲だ。

いやいや、ヨーデルだから似ているだけでしょ、
と思うなかれ。
比較的知られているほかのヨーデル曲を眺めてみよう。
前述の『おしえて』
「♪ヨーロヨーレヨッヒッホー、ヤッフッフーレヤッヒホー」
『おおブレネリ』(スイス民謡/ by
)
「♪ヤーッホーッ ホートランランラン ヤッホッホートランランラン」
『ホルディクック』(オーストリア民謡/ by
)
「♪ホールディーヤー ホールディッヒッヒーヤ ホールディクック」
『ひとりぼっちの羊飼い』(『サウンド・オブ・ミュージック』より/ by
)
「♪レイオロレイオロ レッヒッホー」
ね?どれも毛色が違うでしょ?
(いずれの歌詞も、著者の聞き取りによるいいかげんなもの)
ところが、一番ヨーデルらしいヨーデルであるはずの『山の人気者』が
サウンド的には最もヨーデルから遠いというのが面白い。
使われている楽器が、アルプホルンなどのスイス的な楽器ではなく、
おおよそヨーデルとは程遠いもののためだ。
これはこの曲が生まれたのが、アメリカであることが大いに影響している。
聴いた印象からの推測だが、おそらく使われている楽器は
フィドル*2とバンジョー、アコーディオンとカスタネット(ウッドブロックかも)だろう。
要するにカントリー・ミュージックの編成なのだ。*3
だけど、ヨーデルといえば、日本では「♪ヨーロレイヒー」。
だから、『山の人気者』を聴いたものは、
結構な確率でこう思う。
あ、この曲知ってる!
前奏を聴いて、これ知ってる!
サビを聴いて、これ知ってる!
山の人気者? 知らない・・・
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
ユーレイティ
本文中では、さんざん「ヨーロレイヒー」と書いてきたが、
歌詞を見ると「ユーレイティ」が正しい表記らしい。
幽霊T?
もしや、かの名高い平将門の怨霊か。(たぶん違う)
ヨーデルのフレーズのほとんどは、「ヤッホー」に代表される、
それ自体にさして意味のない掛け声の合図で、
遠くにこだまして通りやすい音が使われているようだ。
『与作』(北島三郎/1978年)の「♪ヘイヘイホー」と
根っこのところは同じであると思われる。
山の人気者
それはミルク屋、と歌われているので、
ミルクを売るのを生業にしている者と思われるが、
やっていることは、唄をふりまいて、乳をしぼって、娘たちを引き寄せる。
まったくもって状況が想像しづらいが、おそらくは、
合図として歌を歌いながら、牛や山羊を引き連れ、
客が来たらその場で乳をしぼって売っているのだろう。
現在入手可能な収録CD/視聴可能