日本百名曲 -20世紀篇-

20世紀の日本の歌曲から、独断と偏見による日本100名曲を紹介(500名曲もやるぜよ)

『たそがれの銀座』 黒沢明とロス・プリモス ~ 数え歌になり損ねたかムード歌謡

やがて日本のポピュラー・ソングの王道がロック・ポップス*1に移り代わり、
その傍流としてフォーク*2やニュー・ミュージック*3が台頭してきた頃。

従来の古いタイプのうたは「歌謡曲」という新たなジャンル名を頂戴して、
独自の進化を遂げていった。

その中に、「ムード歌謡」という名を与えられた枝葉的なジャンルが発生した。
大雑把に定義するならば、ラテンのリズム*4に乗せて、
コーラスグループが歌う歌謡曲を指すものということになる。


ムード歌謡は、歌詞の内容でさらに2系統に分けられ、
オッサンらのグループが女心を歌いあげる系統と、地域を題材にした内容の系統とがあり、
後者は「ご当地ソング」とも称され、ジャンルの絡み合いが激しくややこしい。

たそがれの銀座 (MEG-CD)
シングルジャケット/amazonより
たそがれの銀座

たそがれの銀座

  • 純烈
  • 演歌
  • ¥255
これは純烈によるカバー
  • 作詞 古木花江、作曲 中川博之、編曲 小杉仁三
  • 1968年(昭和43年)5月1日、クラウンレコードより発売
  • オリコン最高7位(年間32位/1968年)
  • 歌詞はうたまっぷへ:たそがれの銀座 純烈 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
  • 曲にまつわる背景などはwikipediaにくわしい:ロス・プリモス - Wikipedia

  • 主だったムード歌謡の歌い手には、
    表題曲や『ラブユー東京』(1966年/試聴はこの先から)を代表曲に持つ、
    黒沢明ロス・プリモスや、
    長崎は今日も雨だった』(1969年)、
    『東京砂漠』(1976年/どちらも試聴はこの先から)の、
    内山田洋とクールファイブ
    『星降る街角』(1972年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード)、
    『よせばいいのに』(1979年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード)の、
    敏いとうとハッピー&ブルー、といった面々にはじまって、

    末は『さよならイエスタデイ』(1991年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード)
    ガラスのメモリーズ』(1992年/試聴/停止 byiTunesからダウンロード)のTUBEと、
    意外なところに至ってしまう系譜である。

    そのまま脱線したままジャンルの終焉を迎えるのかと思いきや、
    やがて21世紀になって、スーパー銭湯アイドルこと純烈が、
    正統派のムード歌謡の若き(?)担い手として人気を博し、
    ちゃっかりと過去のヒット曲の数々もわが物のようにレパートリーに加えて行っており、
    表題曲も「たそがれの銀座体操」なる、怪しげな扱いで取り上げている


    ジャンルとしてはもう少し寿命がありそうな気配だ。



    ・・・ジャンルの説明は、ある種無意味だ。細かく分ければきりがないし、
    境界線が非常にあいまいで、言ったもん勝ちの様相も濃い。
    果てには「B'zというのは、それで一つのジャンルである」のような
    唯一神論者の極論まで飛び出してしまう。

    しかし、カテゴリ分けされることで、まだ見ぬ次なる曲を見出すきっかけにもなるし、
    何より説明が容易になる。


    この『たそがれの銀座』は、それらジャンルのうち、
    ご当地ソング」のどストライクに位置する。
    この説明だけで、9割がたの説明が済んでしまうといって
    過言ではないような気がしてしまうのは恐ろしいところだ。

    ゆったりとしたラテンの軽いリズムに乗って
    日が暮れゆき、ネオンサインがともるまでの、わずかな時間の
    銀座の情景を歌う。気ままに生きる女たちの情景を。

    銀座という地名は飾りに過ぎない。
    あくまで主役は彼女たちだ。



    名曲・聴きドコロ★マニアックス

    銀座の一丁目から始まって、八丁目までの
    ありふれた情景を歌うこの曲、

    元々は数え歌のような歌詞を目指していたのかもしれない。
    「♪六丁目の ナ(七)ツコは・・・」
    「♪八丁目の ク(九)ラブで・・・」
    などにそれらしき名残が見て取れる。

    歌いだしも
    「♪ふた(二)りだけのところを だれかにみ(三)られ」
    から始まるしね。

    そんなことを考えているとあれもこれも
    「三丁目の サ(三)ロン」のように
    そこかしこが数字に関係しているように見えてしまう。


    意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み

    たそがれ
    漢字で「黄昏」と書くが、本来の字は「誰そ彼」。日が暮れて人の顔かたちが判らなくなる時間帯のこと。「黄昏」は漢語に同じような意味を持つ日本語の読みをあてた宛字。「百日紅」を「さるすべり」と読むのに似ている。

    数寄屋橋は消えても銀座は残る 柳とともにいつまでも
    数寄屋橋はかつて江戸城(皇居)の外堀が埋められる前に存在した橋。現在は地名にのみ残る。
    『東京行進曲』(1929年/佐藤千夜子 by )や
    『東京ラプソディ』(1936年/藤山一郎試聴/停止 byiTunesからダウンロード )など、
    数々のうたに歌われた銀座の柳は、消えては復活を繰り返しつつ現在に至る。


    現在入手可能な音源
    やっぱ生で聴きたい人は、ライブ・イベント情報&チケット

    ※該当曲を聴ける保証はありません。



    脚注

    *1:【ロック・ポップス】諸説あるが、ロックとポップスは本質的には同じもの。どちらも4拍子の2拍目と4拍目にアクセントが入る楽曲の総称

    *2:【フォーク】アメリカ民謡から派生した、電気音を使わないアコースティック楽器をメインにした楽曲

    *3:【ニュー・ミュージック】フォークとポップスの融合した日本独自のジャンル名。井上陽水荒井由実の楽曲などに称された。現在J-POPと称されるものとだいたい同じ、あいまいな分類名。挙げた中では一番新しいのに、真っ先に名前を消すことになった。

    *4:【ラテンのリズム】主に中南米発祥の楽曲を指す。サンバやマンボ、タンゴ、レゲエ、ボサノバなど多様にわたる。