てっきり昭和の歌だと思っていたが、案外平成の歌だった。
といっても昭和も明けたてホヤホヤの平成元年のこと。
イケイケに唸り上げるエレキギターのイントロに導かれ
飛び出した言葉は、「♪つわものどもが夢の跡だね」。
思いもかけず芭蕉の句が飛び出てきて、このギャップがなんともおもしろい。
「夏草や兵どもが夢の跡」からきている。
奥州藤原氏や源義経らの栄枯盛衰の故事を知ってか知らずか、知らずか知らずか、
恋を戦場と捉えて、終わった恋模様をこの有名な句で例えている。
のっけから突拍子無さ全開だ。
話が少々脱線するが、アンダーグラウンドの曲はともかく、
メジャー曲で俳句を織り込んだ曲ってのは、思い当たる限りこの曲を除いてない。
「かわず飛び込む水の音」*1とか、
「負けるな一茶これにあり」*3とか、
無さそうでやっぱ無いよなあ。
近いところで、万葉集の1句を題材にした、
さだまさしの『防人の詩』(1980年/ by)が思い浮かぶくらい。
現実世界において、ママさんロッカーであるアン・ルイス*4が歌うことによって、
たとえ悲しみを身ごもっても、胎内でやさしさに転生させることが出来る、
そして女性であるがゆえに、そんな痛みをも耐え抜くことができる
という部分に、わずかではあるがリアルを感じることが出来るが
それ以外の部分はというと、
何だか突拍子もないというか、正直バカっぽくすらある。
突拍子もないといえば、まず主人公の行動。
「♪あの日あなたと踊ったドレス 冬の海へと流しに来た」
何しとんね、と思わずツッコミたくなるな行動で、
下手すると何かと勘違いされて、捜索隊が出張る羽目になるので
やめておいた方がよいと思う。
「♪濡れた足首投げ出して このままここで眠りたいわ」
いや、だからやめとけって。
つらいばかりの想い出から逃れるためとはいえ、面白すぎる。
とにかくこの主人公ときたら、行動だけでなく言動も突飛で
「♪通り魔みたいに あなたの愛が今 この腕を離れてゆく」
通り魔みたい、なんて物騒なことばを持ち出してきているが
要は、あなたの持っていた愛は、誰彼構わず発生する、無作為な愛だった
-相手は自分じゃなくても誰でも良かった-ということを
よりによって通り魔と例えてしまっている。
難しいことばや、刺激的なことばを例えに使っているていうのは、
実はボキャブラリーが豊富にあるように見せかけた、
主人公のボキャブラリーの貧困さの裏返しに思えてならない。
適切なことばが見つからないからこそ、
知っている妙なことばで代用してしまっているのではないかと。
だから、なんとなく全体的にバカっぽく聞こえてしまうのだ。
そして半分ヤケのような歌詞の中、後半になって
前述の女性論理を持ち出して
女ならどんな痛みにも耐えられる。
私は女だから耐えられる
I am woman. 私は女性 ではなく
My name is WOMAN. 私の名は女性
と、妙に暗示的な言い回ししているのも気になる。
失恋の痛みを乗り越えたい一心で、半ば強引に
ポジティブ思考に変換しようとしているように思えてならない。
そこまで思い詰めているのか、
悲劇のヒロインを気取っているのか。
意味が知りたい★ここんとこ 深読み&ななめ読み
月の光をまぶたに受けて
つまりは目を閉じて、上を仰ぎ見ているわけだ。
それはそうと、「冬の海」って割にはちっとも寒そうに感じないのは自分だけ?
心が冬なだけで、実際は出だしの句と同じく、「夏草」の季節なんだろうか。
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